木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
もう少し待っていれば、きっと――
そのとき、小道の方から、かすかな足音が聞こえた。
じっと見る。
誰かが来る。
思えば、かなたの声が聞こえていたころ、誰かが訪れることは一度もなかった。
突然の来訪者に驚き、楓は身を強張らせた。
やがて、小道の向こうから、一人の青年が姿を現した。
二十歳前後だろうか。
楓も驚いたが、青年もまた、楓を見て驚いたような顔をした。
けれど、すぐに人のよさそうな笑みを浮かべた。
「こんにちは」
楓ははっとした。
この声――。
忘れられるはずがない。
温かな優しさに包まれた、あの声。
ずっと、ずっと聞きたかった声。
間違いない。この人は――。
楓は立ち上がった。
「かなたさん……!」
涙を流しながら、まっすぐ青年を見つめた。
けれど青年は、楓の涙を見て、悲しそうに微笑んだ。
「ごめんなさい。僕はかなたさんではないんです」
(かなたさんじゃない?
こんなに声が似ているのに?
でも、この人はかなたさんのこと、知ってる……?)
「水島楓さん、ですよね」
楓はためらいつつも、頷いた。
「驚いたな。父が言っていた話って、本当だったんだ」
「どういうことですか?」
青年は、楓の背後にある桜の木を見上げて言った。
「この桜の木では、不思議なことが起きるんですよね」
楓は目を見張った。
「楓さんはここで、過去にいるかなたさんの声を聞いていた。
二人はここで会話をして、ときには楽器で演奏もしていた」
青年は、カバンから箱を取り出した。