木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
箱の中には、布に包まれた一本の尺八があった。
飴色の竹の表面には、細かな傷がいくつも刻まれ、長い年月、大切に使われていることがうかがえた。
「この尺八って、もしかして……?」
「ええ。かなたさんの尺八です。どうぞ、触れてみてください」
楓は尺八に震える手でそっと伸ばし、両手で持ち上げた。思ったより軽い。
(これが、かなたさんの尺八……。
これが……本当に?)
「どうして……かなたさんの尺八を持っているんですか?」
この青年は、いったい何者だろう。
どうして、自分とかなたのことを知っているのだろうか。
青年は、かなたによく似た声で、静かに言った。
「僕は泉あおと。かなたさんの血縁の者なんです」
◇
楓はあおとは、木の下に並んで腰を下ろした。
あおとが話し始める。
「僕の曽祖父の兄に当たるのが、かなたさんです。随分遠い親戚ですよね。
僕自身は会ったことがありません。でも、父は小さいころ、かなたさんによくお世話になったそうです。
とても物腰が柔らかくて、優しい方だと聞いています」
(私が知っている、かなたさんだ……)
「僕がかなたさんのことを知ったのは、つい先日のことです。
ある日、父が僕に話があると言って、呼び出したんです。
そのときに聞かされたのが、かなたさんと楓さんの話でした。
二人が交わした五年後の約束についても。
かなたさんは、祖父宛てに手紙を残していたんです。
祖父が亡くなったあと、父が手紙を見つけ、父が僕に見せてくれました」
そう言って、あおとはカバンから、一通の黄ばんだ封筒を取り出した。