木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
かなたからの手紙……。
楓は恐る恐る封筒に手を伸ばし、中から一枚の手紙を取り出した。
紙はすっかり古びていたが、文字はまだ読めそうだった。そこには、隙間もないほど丁寧に文字が綴られていた。
楓は、ゆっくりと読み始めた。
『楓さん
いかがお過ごしでしょうか。
楓さんの声を最後に聞いてから、早くも二十年の月日が流れました。
今年もあの場所へと向かいましたが、相も変わらず、何も聞こえませんでした』
(かなたさんだ……)
この柔らかく、丁寧な言葉遣い。
間違いない。かなたからの手紙だ。
楓は震える指で、次の文字を追った。
『それでも今年も僕は、この木の下で、楓さんのヴァイオリンを思い出しながら、尺八を吹くことにしました。
少しだけ、昔話をさせてください。
僕は小さい頃、あまり長くは生きられないだろうと言われても、別に構わないと思っていました。
両親には申し訳なかったですが、僕には生きるへの執着が、あまりなかったのです。
唯一の楽しみは、尺八を吹くことでした。尺八を吹く時間だけは、何もかもを忘れることができました。
そんなある日、いつもの場所で尺八を吹いていたら、突然、女の子の声が聞こえてきました。
その声は、とても可愛らしくて、でもどこか芯のある声でした。
初めて彼女のヴァイオリンを聴いたとき、こんな素晴らしい音色がこの世にあるのかと、心から感動しました。
そのあと、彼女と交わした何気ない会話も、とても心が安らぐものでした。
いつしか、彼女と過ごす時間は、僕の人生で一番満たされた時間になりました。
とても恥ずかしくて口では言えませんでしたが、彼女の夢を見てしまうほどに。
楓さん。
僕はあなたに救われました。