木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
あなたの声を聴いて、僕はこの声を聴くために明日も生きようと思いました。
そして同時に、初めて死ぬことが怖いと思いました。
楓さんと約束を交わした日から、僕は五年後も、十年後も生き続けようと思いました。
そして、僕は楓さんとの約束を果たすために、この町に戻ってきました。
けれど、もう楓さんの声は聞こえません。楓さんと一緒に楽器を演奏することもできません。
楓さんとの約束を果たすことは、もう叶わないかもしれません。
だから僕は、手紙を書くことにしました。いつか僕がいなくなったあとも、この手紙が家族に受け継がれ、時代を超えて、楓さんのもとに届きますように。
長くなりましたが、最後に言わせてください。
僕の生きる望みになってくれて、ありがとう。
どうか幸せに生きてください。
願わくば、一度でいい。
あなたに、会いたかった』
読み終えたとき、楓の頬を涙が伝った。
手紙を両手で包み込むように持ち、そっと胸に引き寄せる。
(かなたさんは、ずっと生きていてくれた。
私のことを考えて、手紙まで残してくれた。
そして、あの二年間を、こんなにも大切に思ってくれていた)
楓は立ち上がると、桜の木にそっと手を添えた。
もう声さえも届かない相手に、呼びかける。
「かなたさん、ありがとう。手紙、届いたよ。とても、うれしいです。
約束をずっと果たそうとしてくれてありがとう。私も、かなたさんが私の生きる望みだった。
だから、もう……十分だよ」
そう言って、楓は額を木に押し当てた。
あふれる涙を止めることができなかった。
しばらくして、ようやく涙を拭った楓は、隣に立つあおとに向き直り、頭を下げた。
「ありがとう、あおとさん」
少し迷いながら、楓は続けた。
「実は私……あの二年間のこと、本当は夢だったんじゃないかって思ったこともあったんです。
夢だったのか、それとも幻聴だったのか。自分の頭がおかしくなったのかなって、本気で考えたこともありました。
でも……あの二年間は、本当にあったことだったんですね。
あおとさんのおかげです」
あおとは、しばらく楓を見つめていた。
やがて、優しく微笑んだ。
「僕は昔から、親戚によく、かなたさんに似ていると言われていたんです。顔立ちだけじゃなく、声も。
それに、小さい頃、かなたさんの尺八を見て、楽しそうに吹く真似をしていたそうです。
だから父も、自分ではなく、僕にここへ来るように言ったんです。
最初は尺八なんて吹けませんでしたけど、今では練習して、吹けるようになりました」