木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―

あなたの声を聴いて、僕はこの声を聴くために明日も生きようと思いました。

そして同時に、初めて死ぬことが怖いと思いました。

楓さんと約束を交わした日から、僕は五年後も、十年後も生き続けようと思いました。

そして、僕は楓さんとの約束を果たすために、この町に戻ってきました。

けれど、もう楓さんの声は聞こえません。楓さんと一緒に楽器を演奏することもできません。

楓さんとの約束を果たすことは、もう叶わないかもしれません。

だから僕は、手紙を書くことにしました。いつか僕がいなくなったあとも、この手紙が家族に受け継がれ、時代を超えて、楓さんのもとに届きますように。

長くなりましたが、最後に言わせてください。
僕の生きる望みになってくれて、ありがとう。
どうか幸せに生きてください。

願わくば、一度でいい。

あなたに、会いたかった』

読み終えたとき、楓の頬を涙が伝った。

手紙を両手で包み込むように持ち、そっと胸に引き寄せる。

(かなたさんは、ずっと生きていてくれた。
私のことを考えて、手紙まで残してくれた。

そして、あの二年間を、こんなにも大切に思ってくれていた)

楓は立ち上がると、桜の木にそっと手を添えた。


もう声さえも届かない相手に、呼びかける。

「かなたさん、ありがとう。手紙、届いたよ。とても、うれしいです。
約束をずっと果たそうとしてくれてありがとう。私も、かなたさんが私の生きる望みだった。
だから、もう……十分だよ」

そう言って、楓は額を木に押し当てた。
あふれる涙を止めることができなかった。

しばらくして、ようやく涙を拭った楓は、隣に立つあおとに向き直り、頭を下げた。

「ありがとう、あおとさん」

少し迷いながら、楓は続けた。

「実は私……あの二年間のこと、本当は夢だったんじゃないかって思ったこともあったんです。

夢だったのか、それとも幻聴だったのか。自分の頭がおかしくなったのかなって、本気で考えたこともありました。

でも……あの二年間は、本当にあったことだったんですね。

あおとさんのおかげです」

あおとは、しばらく楓を見つめていた。

やがて、優しく微笑んだ。

「僕は昔から、親戚によく、かなたさんに似ていると言われていたんです。顔立ちだけじゃなく、声も。

それに、小さい頃、かなたさんの尺八を見て、楽しそうに吹く真似をしていたそうです。

だから父も、自分ではなく、僕にここへ来るように言ったんです。

最初は尺八なんて吹けませんでしたけど、今では練習して、吹けるようになりました」
< 46 / 48 >

この作品をシェア

pagetop