若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです

chapter,1 誘拐




 朝のダイニングには、フレンチトーストの甘い匂いと、息子の元気な声が満ちていた。

「パパはね、悪いやつをやっつけるヒーローなんだよ!」

 息子の陽向が、ヨーグルトスプーンを剣のように掲げている。大森陽向、五歳。
 幼稚園でも、近所でも、会う人ごとにパパの自慢をして回る、小さな広報担当である。

「ひーくん、スプーンは剣じゃないぞ」

 そう言いながらも、護の口元はゆるんでいた。
 濃紺のスーツをきちんと着こなし、朝刊を片手にコーヒーを飲む姿は、確かに社員たちが憧れる「若き社長」そのものだ。
 学生時代に起業し、七年足らずで社員二百人を率いる彼は、家族写真とともに経済誌に取り上げられたこともある。

 ――けれどわたしは知っている。この人が、昨夜のうちに三回もわたしの寝顔を見に来たことを。

 瑠那は、笑いを堪えながらオムレツを皿に載せた。ふんわりとした半熟卵のオムレツは、夫の大好物である。

「護さん、そういえば」
「ん?」
「玄関の新しい電子錠、勝手口側のセンサーが三秒遅れていましたよ」

 護の手がぴたりと止まる。

「……なんで知ってるんだ」
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