若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです
立ち上がって、周囲を見回す。ブランコ。滑り台。ジャングルジム。どこにも、あの小さな背中がない。
「ひーくん! 陽向!」
声が裏返る。近くにいた母親たちが振り向いた。
「どうしました?」
「息子が、さっきまでここに――」
言いかけて、瑠那は気づいた。砂場の縁に、小さな粒が転がっている。
紫色のジェリービーンズだった。
心臓が、どくんと音を立てる。
陽向が自分で置いたものではない。あの子は、パパの引き出しのものを靴に入れるのが好きなだけで、公園にまで持ってこない。
この色は、陽向のお気に入りの「ぶどう味」。あの子が好きな色――まさか、おびき出された?
お菓子を見せて、「こっちにもあるよ」と言えば、五歳の子は簡単について行ってしまうだろう。
瑠那は、深く息を吸う。
声を上げて走り回るのは、素人のやること。
思い出せ。かつて怪盗ジェリー・ムーンだったときのことを。
盗みをする際に、自分が一番大切にしていたのは、現場を見て判断していたことを。
――見えた。