若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです
砂場。足跡。大人の靴底の跡が、フェンスの方へまっすぐ伸びている。公園の出入口の先は、道路。止まっていた車の轍はまだ新しい。
時間は、せいぜい二分。
瑠那は駆け出した。道路に出ると、白い車が角を曲がって消えるところだった。ナンバーまでは読めない。
それから十数分、付近を走り回ったが、手掛かりは何も見つけられなかった。
「……っ」
膝が震えた。ただの母親の顔に戻りそうになる。
そのとき、バッグの中でスマホが鳴った。画面には、「護」の名前。
「瑠那か」
護の声は、いつもより低かった。
「ひーくんが……」
「知ってる。会社の留守電に、メッセージが入っていた」
一拍置いて、護は言った。
「ひーくんの声が、入ってる。すぐ来られるか」
瑠那は、電話を握りしめたまま、走り出した。
* * *
セキュリティフォレストの社長室に駆け込むと、護はデスクの前に立っていた。
その手元で、小さな再生機が点滅している。
「聞くか」
「聞く!」
即答すると、護が頷いて再生ボタンを押した。
流れてきたのは、機械で変えられた、平坦な声だった。