若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです
『大森護社長。もしくは、怪盗ジェリー・ムーンの旦那さん、と呼ぶべきか』
瑠那は、息を止めた。
『事件の夜、鷲尾邸の防犯カメラに、彼女の素顔が残っていた。お前が経済誌で笑っている妻と、同じ顔だ』
護の指が、デスクの縁を白くなるほど握りしめる。
『息子は預かった。返してほしければ、怪盗を一度だけ復活させろ。明晩零時、鷲尾邸の地下金庫を開けて、中身を持ってこい。最新の警備が入っている。お前の妻にしか、あれは破れない』
そこで、声が途切れた。
代わりに、小さな息づかいが聞こえた。
『……ママ? パパ?』
瑠那の胸が、ぎゅっと音を立てた。
『ひーくんね、だいじょうぶだよ。ちゃんと、秘密、守ってるから。だからね、ママ、泣かないでね』
再生機の向こうで、変声の男が舌打ちをした。
『警察に知らせたら、息子の命はない。以上だ』
ぷつりと通話が切れた。
瑠那は、しばらく動けなかった。
泣かないでね、と言った五歳の声が、耳の奥で何度も響く。あの子は、怖いはずなのに、わたしを気遣っている。
「……瑠那」
護が、静かに名前を呼んだ。