呉服王子のギャップがメロすぎです!~料理上手な御曹司に胃袋ごと捕まりました~
――今からちょうど一年前。花桐呉服の入社を翌日に控えた三月の最終日だった。
私はひそかに花桐呉服の本店を見に行った。
といっても、中に入ったわけではない。本社兼本店社屋を外から眺めながら、明日からここで働くのだと気合を入れただけだ。先輩社員たちの仕事の邪魔をするなんてとんでもない。
『よし、任務完了!』
ちいさくガッツポーズをした途端、お腹がグーッと鳴った。
慌ててお腹を押さえて周囲を見渡す。幸いなことに誰にも気づかれていない。
『どこかで桜でも見てから帰ろうかな』
小さくつぶやいてから歩き出した。
就職を機に上京してきた私は、東京に土地勘がない。スマホ片手にうろうろしていたら、どうにかひと息つけそうなところを見つけた。見るからに小さな公園だったけれど、桜の木が何本か植わっている。例年より桜の開花が早かったせいで、四月を待たず満開となっていた。
きっと有名なお花見スポットなら人であふれているだろうけれど、ビル群の狭間にポツンとある児童遊園に人はまばらだ。ちょうど桜の木の下にベンチもある。
ふたつ並んでいるうちのひとつには、すでに誰か座っていたため、私はもうひとつのベンチに腰を下ろした。