その溺愛、予想外につき。
すると真白さんは、涼の方に目を向けた。

「あなた、いつも妹さんとどう喋ってるの」

突然振られた涼が、少し困ったように瞬きをする。

「え……普通に、ですけど」

「その普通をやってみて」

涼は少し考えてから、私を見た。
ほんの一瞬だけ、兄妹としての空気が戻る。

「……何飲む?」

私は反射で答えそうになって、慌てて止まる。
今はふわりじゃなくて涼を真似しなきゃいけない。

兄は小さく息を吐いて、自分で答えを見せるみたいに続けた。

「別に、なんでもいい」

低すぎない、けれど軽くもない声。
ぶっきらぼうに見えて、冷たくはない言い方。

真白さんが私を見る。

「今の、やって」

私はごくりとつばを飲んだ。

「べ、別に……なんでもいい」

「違う」

即答だった。

「力みすぎ。あと、語尾に丸みがある。もっと自然に」

難しい。
たった一言なのに、こんなに難しいなんて思わなかった。

私は何度も繰り返す。

「別に、なんでもいい」
「別に……なんでもいい」
「別に、なんでもいい」

やるたびに少しずつ修正される。
声の高さ。
間の取り方。
目線の向け方。

隣で涼も時々、短く見本を見せてくれた。
そのたびに、自分との差がはっきりして胸が苦しくなる。
やっぱりお兄ちゃんはすごい。
ただ立って、ただ話しているだけなのに、自然に人を惹きつける。
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