君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
◇
王宮の大広間は、無数の燭光に包まれていた。シャンデリアから滴り落ちる光が磨き上げられた床に反射し、貴族たちの絹と宝石をさらに眩しく彩っている。ワインの香りが濃く、談笑する声と弦楽器の調べが重層的に響き渡る。
その喧騒の中を、リリーはノアの隣で歩いていた。青と白を基調とした正装に金糸の紋章を縫い取った彼の腕に、リリーの手が添えられている。広間の中央、玉座の前にある一段高い場所へと向かう。
ノアはリリーの手を取り、一歩前に出た。
「グレンフォード王国王太子ノア・レイ・グレンフォードの名において宣言する」
低くよく通る声が広間に響いた。
「この女性、リリー・クロイド嬢を私の婚約者として迎える」
視線が一斉に集まる。好奇、警戒、評価。様々に色を変える眼差しが、リリーの全身を舐めるように走った。
ノアは微動だにしなかった。ただリリーの腰に添えた手に少しだけ力を込め、彼女を自分の影の中に留めていた。
やがて人波が割れ、一人の女性が歩み寄ってきた。公爵令嬢アリーナ・ヴァイスベルク。彼女は迷いなく、リリーの前に立つと恭しく礼を取った。
ノアはアリーナを見つめたまま、動かなかった。リリーの手がノアの袖を微かに握った気がした。大丈夫という合図でもあり、自分で応えるという意思表示でもあった。
アリーナは微笑んだ。
「おめでとうございます、リリー様」
「……ありがとうございます、アリーナ様」
リリーは深く頭を下げた。ドレスの裾が揺れ、銀の髪飾りが光を弾く。アリーナの視線が一瞬だけその青い石に止まり、それからリリーの瞳へと戻った。
「殿下のお眼鏡にかなった方……やはり特別な方なのですね」
「いいえ……私など……」
「謙遜なさらないで」
アリーナは静かに首を振った。
「この王宮で殿下の隣に立つ覚悟を決めたこと。それだけで十分すぎるほどですわ」
王宮の大広間は、無数の燭光に包まれていた。シャンデリアから滴り落ちる光が磨き上げられた床に反射し、貴族たちの絹と宝石をさらに眩しく彩っている。ワインの香りが濃く、談笑する声と弦楽器の調べが重層的に響き渡る。
その喧騒の中を、リリーはノアの隣で歩いていた。青と白を基調とした正装に金糸の紋章を縫い取った彼の腕に、リリーの手が添えられている。広間の中央、玉座の前にある一段高い場所へと向かう。
ノアはリリーの手を取り、一歩前に出た。
「グレンフォード王国王太子ノア・レイ・グレンフォードの名において宣言する」
低くよく通る声が広間に響いた。
「この女性、リリー・クロイド嬢を私の婚約者として迎える」
視線が一斉に集まる。好奇、警戒、評価。様々に色を変える眼差しが、リリーの全身を舐めるように走った。
ノアは微動だにしなかった。ただリリーの腰に添えた手に少しだけ力を込め、彼女を自分の影の中に留めていた。
やがて人波が割れ、一人の女性が歩み寄ってきた。公爵令嬢アリーナ・ヴァイスベルク。彼女は迷いなく、リリーの前に立つと恭しく礼を取った。
ノアはアリーナを見つめたまま、動かなかった。リリーの手がノアの袖を微かに握った気がした。大丈夫という合図でもあり、自分で応えるという意思表示でもあった。
アリーナは微笑んだ。
「おめでとうございます、リリー様」
「……ありがとうございます、アリーナ様」
リリーは深く頭を下げた。ドレスの裾が揺れ、銀の髪飾りが光を弾く。アリーナの視線が一瞬だけその青い石に止まり、それからリリーの瞳へと戻った。
「殿下のお眼鏡にかなった方……やはり特別な方なのですね」
「いいえ……私など……」
「謙遜なさらないで」
アリーナは静かに首を振った。
「この王宮で殿下の隣に立つ覚悟を決めたこと。それだけで十分すぎるほどですわ」