君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 ◇

 数日後、ノアはハルバートと共に王宮の一室にいた。帳簿には、ギゼルの不正の証拠が記されていた。

 「これで十分か?」

 ノアの問いに、ハルバートが頷いた。

 「十分すぎます。明日の評議会でこれを突きつければ、宰相閣下も逃げ場はありません」

 翌日の評議会は、緊張に包まれていた。貴族たちが玉座の間に集まり、ノアとルナール王が席に着く。ギゼルはいつものように恭しい態度で席に着いていた。

 評議が始まり数人の臣下が発言した後、ノアが立ち上がった。

 「宰相ギゼル・シュタインフェルト」

 名を呼ばれた瞬間、ギゼルの肩が微かに強張った。

 「貴殿に対し、これより告発を行う」

 ギゼルの表情から穏やかさが消え、代わりに冷徹な計算が浮かぶ。

 「軍事予算の横領および南部貴族への賄賂流通。これらは王室への反逆に値する罪だ」

 「証拠はここにある」

 ハルバートが帳簿を広げた。どれもギゼルの手によるものだった。

 ギゼルは立ち上がった。

 「殿下……何をおっしゃるのか。これはすべて捏造されたものではありませんか」

 「捏造?」

 ノアは冷ややかに笑った。

 「ならばなぜこの帳簿には貴殿の署名がある? なぜこれらの日付と金額が、貴殿の私邸から見つかった文書と一致する?」

 ギゼルの顔から血の気が引いていった。
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