君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 ルナール王が、静かに口を開いた。

 「ギゼル……弁解はあるか?」

 王の声は静かだったが、その奥には冷たい怒りが滲んでいた。ギゼルは唇を噛みしめた。逃げ場はない。

 「……ございません」

 「ならば判決を下す」

 王の声が広間に響いた。

 「宰相ギゼル・シュタインフェルト、その職を解き、領地没収の上、投獄する」

 貴族たちは息を呑んでいた。長年権力を握ってきた宰相が、たった数分で失脚したのだ。ノアは、ギゼルを見下ろしていた。ギゼルは近衛兵に両腕を掴まれ、広間から引きずり出されていった。

 ◇

 夜更け、ノアは王太子邸に戻った。廊下を歩く足音だけが静寂に響く。扉越しに灯りが漏れている。扉を開けた。

 「ノア……」

 リリーはまだ起きているようだった。ノアは何も言わず、リリーの隣に座った。肩が触れ合うほど近く。

 「……終わった」

 「何が?」

 「ギゼルが……失脚した」

 「あの人が……」

 「もう脅威ではない」

 ノアの手がリリーの手を包み込んだ。冷たい指先が、彼女の温もりを求めるように握りしめる。

 「これで……君を守れる」

 リリーは何も言えず、ただ彼の手を握り返した。
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