君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜

20 長雨の果てに繋ぐ、一途な愛

 馬車が王都の城門をくぐった日の空は、不思議なほど青かった。リリーは王太子邸のバルコニーに立ち、その空を見上げていた。風が栗色の髪を揺らす。銀の髪飾りが光を弾いた。

 「……来た」

 背後からの声に、リリーは振り返った。ノアが立っていた。

 「城門を通った。もうすぐ着く」

 リリーが誰よりも待ち望んでいた瞬間を、彼もまた共に待ってくれていたのだ。目が熱くなった。

 「……会いたかった」

 「会える」

 馬車が館の前に停まった時、リリーは駆け出していた。扉を開けるのももどかしく、重い鉄の扉を両手で押し開ける。石畳の上に降り立ったのは、二人の姿だった。

 父。疲れの色は濃いが、目は以前と同じように真っ直ぐだった。

 そして弟。トムは十五歳になっていた。けれど瞳の奥の幼さはまだ残っていて、姉の姿を認めた瞬間、その瞳が大きく見開かれた。
 駆け寄る足がもどかしい。石畳を蹴り、父の前に辿り着いた瞬間、膝が折れた。

 「……お父さん」

 父の手が、リリーの背中に回された。

 「……リリー」

 トムが横から飛び込んできた。

 「……姉ちゃん」

 「……トム」

 「……姉ちゃん、来たよ。北の街、来たよ」

 リリーは強く、強く抱きしめ返した。
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