君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 「……ぁっ」

 リリーの背筋が震えた。肌が粟立つ。ノアの掌だけが、やけに熱い。

 ノアの顔が近づく。深い青の瞳が至近距離でリリーを見下ろし、その視線は熱く粘度高く彼女の唇や胸元を舐めるように辿っていく。ただ欲望を満たすためではなく、リリーの中に自分の存在を刻み付けるように。

 「……リリー」

 ノアは身を屈め、リリーの耳元へ唇を寄せた。熱い吐息が、耳の裏を掠める。

 結合された瞬間、二人は息を止めた。皮膚越しに伝わる互いの鼓動が一つに重なる。指先がリリーの手と絡み合い、強く握りしめる。
 窓外の雨音が強さを増す中、二人の吐息だけが部屋を満たしていく。

 「……離さない」

 掠れた誓いが唇から落ちる。

 「……二度と」

 身分も肩書きもすべて焼き尽くすほどの熱だけが、今二人を繋ぎ止めていた。
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