君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
6 三年後――忘れられなかった君との再会
ノアが十八歳になった冬、北の白い宮殿から黒い喪服の知らせが届いた。父王の崩御。
人質の価値は、祖国との関係に比例する。対立が続けば、人質には交渉材料としての意味がある。だが関係が改善されれば、人質は単なる厄介者になる。
叔父の即位は、その懸念を現実のものにした。新王ルナールは現実的な男だった。前王のように理念や誇りに固執せず、実利を取る。
関係が改善されれば、人質は不要になる。解放されるかもしれないし、見せしめに処刑されるかもしれない。どちらにせよ、ノアの行方は他人の手に握られる。そんな当たり前の現実を再確認させられただけだった。
要塞の塔の一室で、ノアは窓枠に手をかけていた。夜空には、星が瞬いている。
ハルバートは、主君の背中を見つめていた。窓枠に手をかけ、外を眺めるノアの横顔は、三年前よりもさらに冷たく硬質な印象を与えていた。人質としての屈辱と逃亡失敗による監禁生活が、彼から表情を奪ったかのように見える。
だがハルバートは知っていた。その氷のような仮面の下で、どれほど激しい焔が燃え上がっているかを。
「殿下」
呼びかけると、ノアはゆっくりと振り返った。その奥にある空虚な闇と微かな光を見て、ハルバートは息を呑んだ。
「北からの使者が帰りました。新国王より殿下の身柄についての言伝があります」
「……聞こう」
「今後も人質としての立場に変わりはない。しかし待遇は改善される可能性があるとのことです」
ハルバートは事務的に報告した。
「……ハルバート」
ノアの声は低く抑えられていたが、妙に響きを持っていた。
「俺は……あの日からずっと考えていた」