君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
◇
ケルビンは自分の露店に戻りながら、一人苦い顔をしていた。
(……また、あの顔だ)
以前からどこか儚げな少女だったけれど、ここ数年――いや、今日特に、その傾向が強くなっている。何かを隠している。何かを抱えている。そして――誰かを想っている。
(……誰なんだ)
市場で一緒に育ち、共に笑い、共に歩んできた。自分の隣にいるのは当然、自分だと思っていた。
けれどリリーは、誰の誘いも受けない。自分の想いにも応えない。ただ――遠くを見つめている。
ケルビンは自分の露店の木箱を蹴った。音が市場の喧騒に消える。
ケルビンは自分の露店に戻りながら、一人苦い顔をしていた。
(……また、あの顔だ)
以前からどこか儚げな少女だったけれど、ここ数年――いや、今日特に、その傾向が強くなっている。何かを隠している。何かを抱えている。そして――誰かを想っている。
(……誰なんだ)
市場で一緒に育ち、共に笑い、共に歩んできた。自分の隣にいるのは当然、自分だと思っていた。
けれどリリーは、誰の誘いも受けない。自分の想いにも応えない。ただ――遠くを見つめている。
ケルビンは自分の露店の木箱を蹴った。音が市場の喧騒に消える。