君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
◇
アッシュワ要塞の塔に戻ったノアは、窓辺に佇んでいた。リリーの温もりがまだ残っているような気がして、無意識に手のひらを握りしめた。
指先に残る彼女の髪の感触。あの細い手首を掴んだ時の脈の打ち方。胸元に押し当てられた額の重み。すべてが鮮烈すぎた。
三年という空白を一瞬で埋めるには、あまりにも短い時間だった。だがその短さゆえに、ノアの中で焼き付いた記憶は、傷のように深く刻まれていた。
ーー『もう少しだけ、ここにいて』
彼女のあの言葉が胸を締め付ける。それがどれほどノアの理性を揺さぶったか彼女は知らない。ノアは窓枠に手をかけ南の街を見下ろした。三年前に出会った時の記憶が蘇る。
(あの時、彼女がいなければ、俺は……)
命を救ってくれたこと。孤独な夜に温もりを与えてくれたこと。そして――名前を呼んでくれたこと。
感謝の気持ちが、今になって喉の奥から込み上げてきた。何か返したいと思った。彼女にだけは――形に残るものを。彼女の髪を飾るものがあれば……。
ノアは塔の居室にある小さな卓に歩み寄った。人質として与えられた部屋には余計なものはない。引き出しを開け、二枚の硬貨を手に取った。これで市場に行けば、何か買えるかもしれない。
次に城を抜け出せる機会を待たなければならない。だが頻繁に抜け出せば危険が増す。監視の目も厳しくなっているはずだ。
それでも――行かなければ。
アッシュワ要塞の塔に戻ったノアは、窓辺に佇んでいた。リリーの温もりがまだ残っているような気がして、無意識に手のひらを握りしめた。
指先に残る彼女の髪の感触。あの細い手首を掴んだ時の脈の打ち方。胸元に押し当てられた額の重み。すべてが鮮烈すぎた。
三年という空白を一瞬で埋めるには、あまりにも短い時間だった。だがその短さゆえに、ノアの中で焼き付いた記憶は、傷のように深く刻まれていた。
ーー『もう少しだけ、ここにいて』
彼女のあの言葉が胸を締め付ける。それがどれほどノアの理性を揺さぶったか彼女は知らない。ノアは窓枠に手をかけ南の街を見下ろした。三年前に出会った時の記憶が蘇る。
(あの時、彼女がいなければ、俺は……)
命を救ってくれたこと。孤独な夜に温もりを与えてくれたこと。そして――名前を呼んでくれたこと。
感謝の気持ちが、今になって喉の奥から込み上げてきた。何か返したいと思った。彼女にだけは――形に残るものを。彼女の髪を飾るものがあれば……。
ノアは塔の居室にある小さな卓に歩み寄った。人質として与えられた部屋には余計なものはない。引き出しを開け、二枚の硬貨を手に取った。これで市場に行けば、何か買えるかもしれない。
次に城を抜け出せる機会を待たなければならない。だが頻繁に抜け出せば危険が増す。監視の目も厳しくなっているはずだ。
それでも――行かなければ。