君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
「……ありがとう」
リリーは髪飾りを両手で包み込んだ。まるで宝物を扱うように、慎重に。二人の間には、奇妙な静けさがあった。ノアが、一歩、近づいた。
「……つけてもいいか」
リリーは顔を上げた。深い青の瞳が、自分を見下ろしている。静かで、灼けるような熱がある。リリーは小さく頷いた。
「後ろに」
ノアが低く言った。リリーはゆっくりと背を向けた。彼の体温が、背中越しに伝わってくるようだった。
リリーの髪に、ノアの指が触れた。栗色の柔らかな束を、そっと梳くように。数本の髪をすくい上げ、髪飾りを留める。その一挙一動が、あまりにも丁寧であまりにも遅かった。一つ一つの動作に、ノアの意志が込められている。この瞬間を、少しでも長く引き延ばしたいとでもいうように。
リリーは目を閉じた。背後から伝わる気配があまりにも濃くて、息ができなかった。ノアの指先が、髪を分け、留め具を差し込み石の位置を確かめる。そのたびに、リリーの首筋が微かに震えた。
指先が、梳くように、撫でるように。髪の束を、すくい上げる。
そして――
ノアは、一房の髪にそっと唇を寄せた。触れるだけの短い口づけだった。それでもリリーの心臓は大きく跳ねた。
ノアはゆっくりと顔を上げた。髪飾りを留めた拍子に、リリーの首筋がわずかに覗いている。一歩、距離を取るべきだった。頭では分かっているのに、動けなかった。
「リリー」
リリーが振り返ろうとした、その前に。ノアの唇は、彼女の首筋に触れた。
驚きに息を呑む気配が伝わり、ノアはすぐに顔を上げた。唇がリリーの首筋から離れる。近づきたいけれど、これ以上は進んではいけない。そう分かっていたから。
リリーの顔が、真っ赤になった。
リリーは髪飾りを両手で包み込んだ。まるで宝物を扱うように、慎重に。二人の間には、奇妙な静けさがあった。ノアが、一歩、近づいた。
「……つけてもいいか」
リリーは顔を上げた。深い青の瞳が、自分を見下ろしている。静かで、灼けるような熱がある。リリーは小さく頷いた。
「後ろに」
ノアが低く言った。リリーはゆっくりと背を向けた。彼の体温が、背中越しに伝わってくるようだった。
リリーの髪に、ノアの指が触れた。栗色の柔らかな束を、そっと梳くように。数本の髪をすくい上げ、髪飾りを留める。その一挙一動が、あまりにも丁寧であまりにも遅かった。一つ一つの動作に、ノアの意志が込められている。この瞬間を、少しでも長く引き延ばしたいとでもいうように。
リリーは目を閉じた。背後から伝わる気配があまりにも濃くて、息ができなかった。ノアの指先が、髪を分け、留め具を差し込み石の位置を確かめる。そのたびに、リリーの首筋が微かに震えた。
指先が、梳くように、撫でるように。髪の束を、すくい上げる。
そして――
ノアは、一房の髪にそっと唇を寄せた。触れるだけの短い口づけだった。それでもリリーの心臓は大きく跳ねた。
ノアはゆっくりと顔を上げた。髪飾りを留めた拍子に、リリーの首筋がわずかに覗いている。一歩、距離を取るべきだった。頭では分かっているのに、動けなかった。
「リリー」
リリーが振り返ろうとした、その前に。ノアの唇は、彼女の首筋に触れた。
驚きに息を呑む気配が伝わり、ノアはすぐに顔を上げた。唇がリリーの首筋から離れる。近づきたいけれど、これ以上は進んではいけない。そう分かっていたから。
リリーの顔が、真っ赤になった。