君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
「……怖いか」
リリーは、首をゆっくりと横に振った。拒絶ではない。けれど、隠したかった。この顔を。この熱を。この、抑えきれない動悸を。
ノアは、ゆっくりと一歩退いた。離れていく気配。背中から遠ざかる体温。また――失う。
リリーは振り返ると、ノアが目の前に立っていた。その瞳は、退いた身体とは裏腹に、まだリリーを捕らえて離さなかった。
ノアの唇が、微かに開いた。何かを言おうとして――止めた。言葉が、出てこない。謝罪の言葉も、想いの告白も、別れの予告も。
二人は、ただ見つめ合う。ノアの親指が、リリーの唇の端を掠めた。ほんの数ミリの接触。それだけで、リリーの全身が跳ねた。
リリーの手がノアの胸に置いた。
ノアの顔が、ゆっくりと近づいてくる。唇が、触れるか触れないかの距離で、止まった。息が、触れ合う。熱い。互いの体温が、狭い空間に満ちていく。
「……リリー」

名前を呼ぶ声は、願いのようだった。切実で、苦しくて、それでいて甘い。
「俺は……君を壊したくない」
だから、触れられない。
「……知っている」
母の言葉が、頭の中で反響する。
「知っているよ……でも」
リリーは、ノアの胸から手を離した。指先が、革の上衣を滑り落ちる。その一瞬の接触が、永遠のように長く感じられた。
距離が、開いた。
リリーは、首をゆっくりと横に振った。拒絶ではない。けれど、隠したかった。この顔を。この熱を。この、抑えきれない動悸を。
ノアは、ゆっくりと一歩退いた。離れていく気配。背中から遠ざかる体温。また――失う。
リリーは振り返ると、ノアが目の前に立っていた。その瞳は、退いた身体とは裏腹に、まだリリーを捕らえて離さなかった。
ノアの唇が、微かに開いた。何かを言おうとして――止めた。言葉が、出てこない。謝罪の言葉も、想いの告白も、別れの予告も。
二人は、ただ見つめ合う。ノアの親指が、リリーの唇の端を掠めた。ほんの数ミリの接触。それだけで、リリーの全身が跳ねた。
リリーの手がノアの胸に置いた。
ノアの顔が、ゆっくりと近づいてくる。唇が、触れるか触れないかの距離で、止まった。息が、触れ合う。熱い。互いの体温が、狭い空間に満ちていく。
「……リリー」

名前を呼ぶ声は、願いのようだった。切実で、苦しくて、それでいて甘い。
「俺は……君を壊したくない」
だから、触れられない。
「……知っている」
母の言葉が、頭の中で反響する。
「知っているよ……でも」
リリーは、ノアの胸から手を離した。指先が、革の上衣を滑り落ちる。その一瞬の接触が、永遠のように長く感じられた。
距離が、開いた。