君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
◇
一方、リリーは粗末な寝台に横たわり、天井を見つめていた。父のいびきと弟の寝息が隣室から聞こえる。隣家の老婆たちから聞いた噂話を思い出していた。
『そういえば聞いたかい? 城にいる北の人質が、もうすぐ国へ帰されるんだってさ』
『可哀想にねぇ。人質の王子様は城に閉じ込められて、自由を奪われていたそうだよ』
胸が押しつぶされそうだった。
(人質の王子様……)
暗闇の中で目を閉じると、これまでの出来事が次々と蘇ってくる。最初に出会った夜。重傷を負っていた彼。物置小屋での生活。気品のある立ち居振る舞い。
母の言葉が、鮮明に蘇る。
『身分違いの恋をしてはいけない。どちらかが必ず壊れてしまうのよ』
分かっているのに――抑えられない。あの青い石の髪飾りを枕元に置いて、指先で何度も触れた。
リリーは寝台から起き上がった。足音を立てないように木の床を歩き、木戸に手をかける。夜明け前の冷たい空気が流れ込んできた。そして――
一方、リリーは粗末な寝台に横たわり、天井を見つめていた。父のいびきと弟の寝息が隣室から聞こえる。隣家の老婆たちから聞いた噂話を思い出していた。
『そういえば聞いたかい? 城にいる北の人質が、もうすぐ国へ帰されるんだってさ』
『可哀想にねぇ。人質の王子様は城に閉じ込められて、自由を奪われていたそうだよ』
胸が押しつぶされそうだった。
(人質の王子様……)
暗闇の中で目を閉じると、これまでの出来事が次々と蘇ってくる。最初に出会った夜。重傷を負っていた彼。物置小屋での生活。気品のある立ち居振る舞い。
母の言葉が、鮮明に蘇る。
『身分違いの恋をしてはいけない。どちらかが必ず壊れてしまうのよ』
分かっているのに――抑えられない。あの青い石の髪飾りを枕元に置いて、指先で何度も触れた。
リリーは寝台から起き上がった。足音を立てないように木の床を歩き、木戸に手をかける。夜明け前の冷たい空気が流れ込んできた。そして――