君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 「帰還を祝する、ノア」

 父王とは違う、現実を切り取るような響き。

 「……ただいま帰還いたしました」

 ノアは片膝をつき、王族の礼をとった。感情の波紋ひとつ漏らさず、完璧に研ぎ澄まされた帰還の儀だった。だが立ち上がった時、ルナールの目と合った。

 「明日、王太子の儀を行う」

 ルナールは短く告げた。

 ノアは頷いた。それが何を意味するか、分かっていた。名誉ではない。鎖だ。より太く、より重く、二度と解けることのない鎖。

 出迎えの列に、ノアの母もいた。微笑んでいた。その瞳の奥に何を抱えているのか、ノアには分からなかった。五年間、一度も面会を許されなかった母子の間に横たわる空白は、もはや溝ではなく断崖だった。

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