君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
◇
ノアの邸宅は王宮の西側、白い石畳の大通りから一本奥へ入った静かな区画に位置していた。馬車が門の前で止まる。王都の喧騒が遠い。ここだけが時間の止まった場所のように、ひっそりと息を潜めている。
鈍い軋みと共に、重い鉄の扉が内側へと滑る。その瞬間、ノアの瞳に飛び込んできたのは整然と並ぶ使用人たちの姿だった。その先頭に、老執事が立っていた。白髪交じりの髪を後ろに撫りつけ、皺の刻まれた顔に静かな感動を滲ませている。深々と腰を折り、震える声で告げた。
「マロンにございます。ノア様のご帰還、心よりお喜び申し上げます」
ノアは馬車を降り、マロンの前に立った。
「久しいな、マロン」
マロンの目が潤んでいた。
「お背が……ずいぶんと高くなられて」
マロンはそれだけを呟き、あとは言葉にならないらしく深々と頭を下げた。その後ろに控えるメイドたちも、一様に緊張した面持ちで頭を垂れている。彼女たちは初めて見る若き王子の姿に、好奇と畏怖の入り混じった視線を向けていた。
ノアは、使用人たちを見渡した。
「面を上げよ」
使用人たちが一斉に顔を上げる。けれど誰一人として、ノアの目を直視できる者はいなかった。その眼差しがあまりにも深く冷たく、そして遠かったからだ。
ノアの邸宅は王宮の西側、白い石畳の大通りから一本奥へ入った静かな区画に位置していた。馬車が門の前で止まる。王都の喧騒が遠い。ここだけが時間の止まった場所のように、ひっそりと息を潜めている。
鈍い軋みと共に、重い鉄の扉が内側へと滑る。その瞬間、ノアの瞳に飛び込んできたのは整然と並ぶ使用人たちの姿だった。その先頭に、老執事が立っていた。白髪交じりの髪を後ろに撫りつけ、皺の刻まれた顔に静かな感動を滲ませている。深々と腰を折り、震える声で告げた。
「マロンにございます。ノア様のご帰還、心よりお喜び申し上げます」
ノアは馬車を降り、マロンの前に立った。
「久しいな、マロン」
マロンの目が潤んでいた。
「お背が……ずいぶんと高くなられて」
マロンはそれだけを呟き、あとは言葉にならないらしく深々と頭を下げた。その後ろに控えるメイドたちも、一様に緊張した面持ちで頭を垂れている。彼女たちは初めて見る若き王子の姿に、好奇と畏怖の入り混じった視線を向けていた。
ノアは、使用人たちを見渡した。
「面を上げよ」
使用人たちが一斉に顔を上げる。けれど誰一人として、ノアの目を直視できる者はいなかった。その眼差しがあまりにも深く冷たく、そして遠かったからだ。