君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 ◇

 翌朝の剣の稽古は、冷たい汗と鉄の匂いの中で行われた。王宮の中庭。朝霧が立ち込める石畳の上でノアは木剣を構えていた。対面には叔父であるルナール王が立っていた。

 「構えが甘い」

 鈍い痛みが走った。

 「五年の人質生活で錆びついたか」

 ルナールは木剣を下ろし静かに言った。

 「……否」

 深い青の瞳で叔父を見据える。

 「再び打って参れ」

 その眼差しには、剣を教える師としての厳しさと、王としての威厳が同居していた。だが同時にその奥底には、計り知れないものが見え隠れしていた。

 叔父と甥。王と王太子。二人の間には血縁以上の複雑な糸が、張り巡らされていた。
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