君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 ◇

 市場の片付けを終え、リリーはいつもの路地を歩いていた。いつもと変わらない帰り道。――のはずだった。

 ふいに、背後で足音がした。振り返ろうとした、その瞬間。

 「……っ!」

 口元を塞がれ、腕を掴まれる。路地の暗がりから、複数の人影が現れた。

 「静かにしろ」

 声を上げる間もなく、リリーは路地に停められていた馬車へ押し込まれた。扉が閉まる。すぐに馬車が動き出した。

 どこへ連れていかれるのか。父とトムはどうなるのか。

 (ノア……)

 真っ先に浮かんだのは、深い青の瞳だった。
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