君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 ◇

 王宮の練武場に、木剣の打ち合う音が乾いた律動を刻んでいた。

 ノアは汗の滲む額を拭いもせず、剣を下ろした。対面に立つ男がいた。レオン・アルドリック。王国騎士団の団長にして、ノアが幼い頃から剣を教わってきた相手。

 レオンの踏み込みは重く、ノアの払いは鋭い。

 「……本気で来るな、殿下」

 人質として戻ったノアに、真っ先に剣を握らせたのも彼だった。

 「殿下」と呼びはするが、その声には跪く響きがない。

 「お前が手を抜くからだ」

 「手を抜いてるつもりはないんだがな」

 レオンは木剣を下ろし、肩で息を吐きながら笑った。

 「で、だ」

 レオンは水差しから直接水を呷ると、ノアを横目で見た。

 「ここ数日、剣に張りがある。いいことがあったんだろう」

 「……俺の私事に口を出すな」

 「出さないよ。ただの観察だ」

 レオンはけらけらと笑った。

 「殿下。あんた、ここ数年で一番顔色がいいぞ」

 「……何の話だ」

 「その顔だよ」

 レオンは木剣の先で、ノアの胸元を軽く突いた。

 「人質から戻った時は、死人みたいな面してた。儀式の時も剣を握らせても、目が空っぽだった。それが今はどうだ。……女のところへ通ってる男の顔だ」

 「レオン」

 「はいはい、黙れと」

 レオンは両手を上げて降参の仕草をしたが、その瞳は笑っていなかった。
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