君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 「一つだけ言わせてくれ」

 「……なんだ」

 「あんたがその女に惚れてるなら、覚悟を決めろ」

 ノアは木剣を握る手に力を込めた。

 「……覚悟など、とっくに決めている」

 レオンは亜麻色の髪をかき上げた。

 「そうか?」

 「殿下があの顔をする時は、大概ロクなことにならない。俺は知ってるぜ。……人質から戻った時もそうだった。何もかも投げ出して死にたがってた」

 「……」

 「だから言うんだ。……あんたが今度こそ生きるって決めたなら、俺は何も言わない。だが、あんたがまた一人で背負い込んで壊れるなら、俺は止める」

 「……守りたい人がいる」

 ノアは視線を落とした。

 「身分が違う。立場が違う。……俺が彼女に関わるだけで、彼女が傷つく。それでも……離れられない」

 レオンは腕を組み、考え込むように目を細めた。

 「……随分と重症だな」

 「……ああ」

 「で? どうしたいんだ」

 ノアは顔を上げた。

 「……彼女を迎えたい。王太子としてではなく一人の男として。だが……それが彼女を危険に晒すことになるなら……」

 レオンはため息を吐いた。

 「殿下、あんた王族だろ」

 「どういう意味だ」

 「王族が一人の女を娶る時、それは国の問題になる。だがな……」

 レオンは一歩踏み出した。

 「俺は騎士だ。剣で守るのが仕事だ。だが……あんたには、剣と同じくらい強い意志がある。それを信じろよ」

 レオンの琥珀色の瞳が、真っ直ぐにノアを見据えた。

 「……俺に何かできるなら言え。俺はあんたの味方だ」

 「レオン……礼を言う」

 レオンは不敵に笑った。

 「礼なら酒で払ってくれ。……上等なやつをな」

 ノアは微かに口元を緩めた。

 「……ああ。用意しておく」
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