君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 ◇

 王太子邸の使用人たちは、最近のノアの変化を敏感に感じ取っていた。廊下ですれ違う使用人たちへ向けられるのも、今ではごく僅かなものではあるが、確かな頷きだった。

 「若様は昔からああいう方ではなかったのですか」

 「いや……幼い頃はもう少しおとなしかった。人質に出される前は、笑う子だった」

 「戻られてからは、まるで別人だった。壁に話しかけるような方だった。目が……通っていなかった」

 人質から帰還した当初のノアは、美しく整いすぎた容貌に似合わぬほど冷たく生気のない青年だった。王太子としての威厳と冷徹さは備わっていたが、そこに人間らしい温もりは欠片もなかった。

 「あのお客様が来てからよ」

 侍女が囁くように言った。

 「殿下の目が……生きている」

 使用人たちは皆、リリーに対して好意的だった。彼女の存在が主君にもたらす変化の意味を深く考える者は少なかった。

 一人を除いて。
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