君を帰すことだけはできない〜北の王太子が五年越しに愛した南の町娘〜
 「左様。クロイド伯爵家の養女となれば、貴族社会への足がかりとなります。殿下がリリー様を正しくお迎えするために、必要な手続きでございます」

 それがどれほどの覚悟の上で行われているか、父にも理解できた。

 「……しかし」

 「ご心配はお察しいたします。ですが、リリー様ご自身が、殿下と共に歩むことを選ばれました。殿下もまた、リリー様以外の方を選ぶことは、決してないと申されております」

 ハルバートは懐から一通の手紙を取り出した。ノアからリリーの家族へ宛てた手紙だった。

 「……殿下からのお手紙でございます」

 父は緊張した面持ちで手紙を受け取った。

 『リリー・エルドレッドのご家族へ』

 父は一文字ずつ、静かに読み進める。最後の一文を読み終えた父は、しばらく便箋を見つめたまま動かなかった。読み終えると、父は手紙を畳みテーブルに置いた。

 「……リリーは幸せなのか?」

 ただ娘の幸せだけを案じる父親の言葉だった。

 「……はい。殿下のお側にいる時リリー様は……穏やかなお顔をされておりました」

 ハルバートは真っ直ぐに答えた。

 「……そうですか」

 父は小さく息を吐いた。

 「……分かりました。リリーを……頼みます」

 ハルバートは立ち上がり、深々と頭を下げた。

 「ありがとうございます。必ずやリリー様をお守りいたします」
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