きみの青春に、私もいたい。
月曜日の朝。

「澄花、ちょっとこれ見て!」

教室に入るなり、莉子がスマートフォンを差し出してきた。

画面には、野球部の集合写真。

その真ん中で、瀬名先輩が笑っていた。

「来月から夏の大会の予選が始まるんだって!」

「……そうなんだ」

「瀬名先輩、最後の夏だよね。三年生だし」

最後の夏。

その言葉が、なぜか耳に残った。

「ねえ、今度一緒に応援行こうよ!」

「……野球、詳しくないけど」

「私もだよ! でも楽しそうじゃん!」

莉子は楽しそうに笑った。

私はもう一度、画面の先輩を見る。

……写真の中でも、笑ってる。

本当に、いつも笑っている人だ。

*

昼休み。

放送室の扉を開けると、先客がいた。

「……あれ?」

窓際に立っていたのは、瀬名先輩だった。

「おっ、小鳥遊さん!」

「……何してるんですか?」

「先生に頼まれて、これ届けに来た!」

先輩が持ち上げたのは、放送委員用の資料だった。

「……ありがとうございます」

「どういたしまして!」

資料を受け取ると、先輩は帰る様子もなく、放送室を見回した。

「ここ、意外と狭いんだね」

「……そうですか?」

「うん。でも落ち着く」

そう言って、窓の外を眺める。

「グラウンドも見えるし」

私は先輩の隣に立った。

確かに、ここからは野球部の練習場所がよく見える。

「……先輩は、野球好きなんですか?」

何気なく尋ねた。

すると。

「……ん?」

先輩が、少しだけ驚いた顔をした。

「そりゃ、好きだよ」

「……ですよね」

「なんで?」

「いえ。いつも楽しそうなので」

先輩は、ふっと笑った。

「……そっか」

けれど、その笑顔は。

いつもより少し、静かだった。

*

「小鳥遊さんは?」

「……はい?」

「放送委員、好き?」

突然の質問。

私は少し考えた。

「……好き、だと思います」

「思います?」

「人前で話すのは苦手なんですけど、放送なら平気なので」

「へえ」

「……顔が見えないから、ですかね」

先輩は頷いた。

「なるほどね」

そして、私を見て笑った。

「でも俺、小鳥遊さんの普通に喋ってる声も好きだけどな」

「……え?」

「なんか落ち着く!」

……また。

そういうことを、さらっと。

「……先輩って、誰にでもそんなこと言うんですか?」

「えっ?」

先輩が目を丸くする。

「そんなことって?」

「……何でもないです」

「えー、気になる!」

「気にしないでください」

「冷たっ!」

先輩が大げさに肩を落とした。

思わず、口元が緩む。

すると先輩は、私を見て少し驚いた顔をした。

「……あ」

「何ですか?」

「今、笑った」

「……笑いますよ、私だって」

「いや、そうだけど!」

先輩は嬉しそうに笑った。

「なんか、初めて見た気がする!」

「……大げさです」

*

その日の放課後。

放送室の片づけをしていると、机の引き出しから一枚のカードが出てきた。

あの日の、匿名メッセージ。

『野球部の瀬名晴臣くんへ。

たまには、頑張らなくてもいいと思います。』

私は、しばらく文字を見つめた。

……誰が書いたんだろう。

先輩のことを、よく知っている人なのかな。

そのとき、カードの裏側に何か書かれていることに気づいた。

小さな文字。

『ちゃんと、笑えていますか?』

「……え?」

私は思わず、もう一度読み返した。

……どういう意味?

いつも笑っている、あの先輩に。

どうして、こんなことを聞くんだろう。

窓の外では、野球部が練習をしていた。

瀬名先輩が、仲間たちと笑い合っている。

いつも通りの、明るい笑顔。

けれど。

……本当に、いつも楽しいのかな。

私はカードをそっと引き出しに戻した。

そのとき初めて。

瀬名晴臣先輩の笑顔が、少しだけ気になった。
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