きみの青春に、私もいたい。
「……小鳥遊さん!」

放課後、昇降口。

靴を履き替えていると、聞き覚えのある声がした。

振り返ると、瀬名先輩が立っていた。

「ちょうどよかった!」

「……こんにちは」

「今日、放送当番だった?」

「はい。どうかしましたか?」

「いや、昼の曲よかったなって!」

……え。

「聴いてたんですか?」

「うん! あの、ちょっと懐かしいやつ!」

「……曲名、覚えてます?」

「…………」

先輩が固まった。

「……メロディーは覚えてる!」

「それ、覚えてないって言いません?」

「厳しいなぁ!」

思わず笑ってしまう。

先輩はそんな私を見て、満足そうに頷いた。

「よし、笑った!」

「……何の勝負ですか」

*

「晴臣ー! 早く来いよ!」

グラウンドの方から、相沢先輩の声がした。

「あ、やべ!」

瀬名先輩が振り返る。

「……練習ですよね?」

「うん。今日はちょっと早めに集合でさ」

「じゃあ、行った方が……」

「あと五分!」

「……はい?」

先輩は壁の時計を指さした。

「まだ五分ある!」

「遅刻したらどうするんですか」

「颯太に謝る!」

「監督には?」

「……全力で謝る!」

「行ってください」

「即答!?」

先輩が笑った。

けれど、すぐには走り出さなかった。

「……あのさ、小鳥遊さん」

「はい?」

「この前の放送のメッセージ、まだ残ってる?」

……あ。

私は先輩を見上げた。

「残ってますけど……」

「そっか」

先輩は少しだけ安心したように笑った。

「捨てないでおいてくれる?」

「……どうしてですか?」

「んー……」

先輩は困ったように頭をかいた。

「ちょっと、気になるから」

いつもの軽い調子とは違う声だった。

私は小さく頷く。

「……分かりました」

「ありがと!」

そのとき。

「瀬名ーっ!!」

今度は相沢先輩の怒鳴り声。

「うわ、マジでやばい!」

先輩が慌てて走り出す。

けれど、数歩進んだところで振り返った。

「小鳥遊さん!」

「……はい?」

「また放送、聴くね!」

そう言って、手を振った。

私は小さく振り返す。

……変なの。

放送なんて、毎日流れているのに。

わざわざ、そんなこと言わなくても。

*

翌日の昼休み。

放送室に入ると、机の上に一枚のメモが置かれていた。

『昨日の曲、教えてください!

瀬名』

「…………」

私は思わず、吹き出した。

……本当に、覚えてなかったんだ。

メモの下には、小さな飴が一つ。

そして、追伸。

『昨日はちゃんと間に合いました!』

「……報告まで」

私はペンを取り、メモの裏に曲名を書いた。

その下に、小さく一言。

『次は自分で調べてください。』

……ちょっと冷たいかな。

そう思って、最後に付け足した。

『練習、頑張ってください。』

書き終えてから、ふと手が止まる。

……あ。

また、頑張ってって書いちゃった。

あの匿名メッセージには、頑張らなくてもいいって書いてあったのに。

私は少し迷って、最後の一文を消した。

代わりに。

『無理しすぎないでくださいね。』

そう書いて、メモを折りたたんだ。

窓の外から、野球部の掛け声が聞こえる。

……先輩、これ読んだら何て言うんだろう。

そんなことを考えている自分に気づいて。

私は、少しだけ不思議な気持ちになった。
< 5 / 11 >

この作品をシェア

pagetop