未来に続く物語
 次の日から古河はシフトを把握してるかのように、私の居る場所へ来て、カウンターの上に静かにカップを置いて言った。

「おはようさん。志央に持ってきた」

「ご苦労さまでした」

 そんな状況が三日ほど続き、常套文句も使い古され、こちらは返しようがなくなり、ただカップを口に運んだ。そこで古河は煙草を口にくわえ、軽く吸い込んでから、横に吐き流していた。

 少しずつ飲みながら、受け入れる気もないことについて、考え始めていた。

 中身は違うものでもカップは同じで、古河の態度は平坦なままだった。

 けれど、こちらに置く時は必ず静かで、持ち去る時には少しだけ表情が柔らかくなる。

 それは慣れていると見せかけて、何かを隠しているように思えた。

 カップの縁を指でなぞりながら、答えを探し始めたとき、低い声と同時に、誰かの陽気な声が重なった。

「志央」

「志央?」

 すかさず腰を上げて身体を向けると、古河の背後から頭が覗いていて、見たくもない顔がこちらを覗き込んでいた。

「やっぱ志央じゃん、久しぶり」

 高校卒業と共に去った男が現れたかと思うと、古河を押し退けるようにしてカウンターの前に立った。

「大人は千八百円です。学生証あれば千五百円です」

 淡々としてみたものの、男は財布を取り出し、わざと金銭を細かく置きながら言った。

「俺、今フリーだからさ、また付き合わない?」

 軽々しい口調には『また』が強調され、一度きりの記憶が呼び覚まされていた。

「チケットは上映後まで無くさないようお願いします。出入口は赤い扉です」

 カウンターの上に半券を相手に向けて真っ直ぐ置き、口を結んでから相手の出方を窺った。

「振ったのは俺だけどさ、仕方ないじゃん、あの頃は子どもだったし、でも……」

 そう言いかけたところで、古河の手が伸びてきて、男の肩に軽く添えた。

「それ以上騒ぐな。出るとこ出てもいいけど……」

「私には決めてる人が居るから」と咄嗟に吐き出して、すぐに口を閉じた。

「来て損した」と男が吐き捨てると同時に、古河が男を押し避け、こちらに向いて「何をだよ」と言ってきた。

 男はこちらを一瞥してから踵を返して立ち去り、残った古河はこちらを見続けていた。

 その眉間には皺が深く刻まれ、今にも苛立ちが言葉になって出てきそうだった。
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