未来に続く物語
 何も言えずに腰を下ろし、最後の一口を飲み込むと、口内に苦さだけが広がった。

 先程の言葉に誤魔化しが効かないことくらいは分かっている。ここで適当に誤魔化しても、古河の苛立ちがさらに増すような気がした。

「具体的にはまだです」

 けれど、時には口が勝手に動き、そのあとで抱えた中から選んでいた。

「どこまで」
 
 古河は平坦な声で言うと、煙草を口にくわえた。

 まるで証言台に居るような錯覚に陥り、軽く首を振って返した。

「想像です」

 そこで、古河の口が開き、煙草が唇に付いたまま、落ちそうになっていた。

 こちらまで口を開きかけたとき、長い指が煙草を軽く持ち上げ、その手がカウンターに置かれ、視線が向けられた。

「そういうの、実物が居たほうがいいと思うけど……」

 静かな館内で低い声が際立ち、綺麗な手が煙草を口元へ運び、火を点けてから軽く吸い込んだ。そして一度止めてから、宙を見るように、煙を上へ吐き流した。

 古河の意図は分かっていても、後先考えずに口が開いていた。

「楽しいですか、そういうの」

 すると、古河は軽く鼻で笑い、煙草を手にして、口元を緩ませた。

「知りたい?」

 思わず腰を上げると、カップを持っていた手が引かれ、身体が傾いたと同時に額に唇が触れた。

「なに……」

 手を離すと、そのままカップを持ち去り、古河は平然と言った。

「物足りなくて、してる」

 開いた口が塞がらず、唾を飲み込んだとき、古河の背後で誰かの姿が見えた。

「なんでそこに古河さん居るんですか?」そう言いながら羽山が近づいてきて、古河の脇から様子を窺っていた。

「逆になんで?」古河は尋ね返し、煙草を近くの灰皿へ落とした。

「それはいいんですけど、邪魔になってないかなぁと思って……」

 羽山の言うことはもっともで、今しがた来た人物にさえ気づかなかった。その言葉が自分にも向けられているように聞こえ、おもむろに口を開いた。

「羽山くん、ごめん。ドアのほう見てるようにするから」

「俺は古河さんに言ってるんです。よく油売ってるようだし、そのうちヘマしないかと思って……」

 羽山はこちらの言葉も聞かず、両手をズボンのポケットに入れ、古河に目を向けていた。

 それでも古河は平然としたまま、煙草を取り出し、口にくわえてから、羽山に言った。

「誰に言ってんの?」

 途端に羽山の顔色が変わり、表情を取り繕うようにこちらへ向かい、カウンターに立って言った。

「今日、終わりまで居てほしいって、上司から……」

「わかった。ありがと」そう返してみたものの、羽山の表情は浮かないままで、踵を返して行った。
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