未来に続く物語
 仕事を終えてから館内の時計を見ると、古河に言われた時間までは一時間も余裕があり、どこかに行こうかと考え、更衣室に向かって階段を下りた。そのまま着替えを済ませてみると、気づけばネックウォーマーを首に掛けていた。

 鞄の中に入れれば飛び出しそうだし、手で持って歩いても落とし物になりそうで、失くすことだけは避けたかった。
 更衣室の姿見の前に立ち、不自然なところはないかと眺めると、何となく浮いてる気がし、首から外して鞄の持ち手に括り付けた。

 鞄の中から携帯用の香水を取り、少し耳の裏に付けてから戻し、更衣室を後にした。

 すると、隣の更衣室から羽山が出てきて、こちらに声を掛けてきた。

「志央さん、お疲れさま。帰るとこですか?」

 足を止めるような言葉を聞き、コートのポケットに手を入れながら、笑みを繕って答えた。

「シフト確認してから、近くの店に寄り道」

「途中まで行きますよ、キャッチ多いし、危ないから」

 同じ笑みを返され、軽く息を吐いたあとで返した。

「無視するし、すぐ傍だから」

「なんか、俺のこと避けてません?」

 そこで言葉に詰まり、首を振ったものの、羽山は続けて言った。

「最近、古河さんとよく話してるみたいだし、悪知恵でもされたんですか」

「そんな風に言わないで。同じ職場だし、無視するのは違う」

 すかさず吐き出したけれど、羽山は苦虫を噛み潰したようにし、おもむろに口を開いた。

「すぐ居なくなる人に、必要なくない?」

 声を籠もらせるようにして言い、羽山はこちらの腕に手を掛け、そのまま徐々に下へ滑らせようとしていた。

 その手が裾に触れた瞬間に振り払うようにし、髪を耳に掛けて誤魔化した。

「聞こえなかった、ごめん。おつかれさま」

 そう言う他になく、羽山には目を向けずにカラオケ屋の事務所へ足を運んだ。

 僅かに軽い舌打ちのようなものが聞こえたけれど、近いうちに羽山の気持ちがさらに強く向いてくるような気がした。

 事務所に入ってから、デスクに置かれたシフト表を確認し、すぐにカラオケ屋から抜け出した。

 そこから映画館に向かい、シアターへ入り、後部の壁際に背を預けて、スクリーンを見据えた。

 垂れ幕のような灰色のスクリーンが一面に広がり、どこを見ても弛んだ箇所はなく、綺麗に下りていた。

 軽く深呼吸をしてみても、先程のことが浮かんできて、言葉を選ぶように、頭の中を探り始めた。

 けれど、どれを取り出しても、同じようなことばかりだった。
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