未来に続く物語
「ここ、映画館です」そう毅然としてみると、古河は「分かってる。けど、十分……十五分待ってほしい」と慌てたように言い、続けて「そこ動くな。絶対戻る」と口にして、踵を返して駆け足で行った。
エンドロールもすでに終わり、館内は入ってきた時と同じ状態で、とにかく落ち着こうと鞄の中を探った。手に触れたのは買ったばかりの本で、読みかけなことに気づき、取り出してから、静かに開いて視線を落とした。
プラスチック製の栞が五ページ目に挟まれていて、栞を手にしながら読み進めるうちに、本の世界へ入り込んでいった。
架空の舞台の上に人物が何人か現れ、そのうちの一人が消え去り、事件として騒がれ出し、怪しい気配を誰もが感じ始めていた。雪原の上に建つ小屋では、犯人の目星も付かず、足跡すら辿れなかった。各人物に動機を当てたところで、一章の終わりを迎え、本を静かに閉じると、目の前で古河が座席の背もたれに腰掛けていた。
そこで『あ』と口を開きかけ、すぐに閉じると、古河がカップを差し出してきた。
鞄に手を掛けて本を仕舞ってから、カップを受け取り、飲み口を開けて口に含んだ途端に、視線が古河に向かった。
すると、古河は微かに笑い、こちらを見ると、平坦な顔になり、口を開いた。
「志央の知りたいのって、俺の女関係だろ」柔らかな声で尋ねてから、古河はポケットを探り、携帯を取り出すと、おもむろにこちらへ向けてきた。
「なんですか」咄嗟に返したものの、携帯には目を向けず、カップを飲み進めた。
「これに全部入ってる。見ても掛けても止めない。出ない人も文句言う人も居ない」古河はそう言いながら、携帯を見るよう、顎で促した。
「そんなことされても……」口にすると、すかさず古河は「それはそう。けど、俺がしたいからしてる」と言い、こちらのカップを手に取り、口に含んだ。
軽く味わったあとで、笑みを浮かべると、古河はカップをこちらの手に握らせ、再び座席に腰掛けて言った。
「志央もそうじゃないの」
平坦な口調を聞いてるうちに、今まで引きずっていた嫌な思い出が薄れていることに気づいた。
「私の、どこが……」
それでも、また口が勝手に尋ねて、途端に恥ずかしくなった。
「だから全部」
けれど、古河は平然としたままで、こちらの手を取り、再び口を開いた。
「何度聞いてもおんなじ。すっげぇ好き」
そう言って手を引き寄せると、「抱きしめていい?」と尋ねてきた。首を傾げてみると、「少しだけ、そのあとでちゃんと送ってく」と言って、優しく腕を回してきた。
背中に伝わる温もりや手の感触が優しくて、ときどき髭が首筋に当たって擽ったくなった。
エンドロールもすでに終わり、館内は入ってきた時と同じ状態で、とにかく落ち着こうと鞄の中を探った。手に触れたのは買ったばかりの本で、読みかけなことに気づき、取り出してから、静かに開いて視線を落とした。
プラスチック製の栞が五ページ目に挟まれていて、栞を手にしながら読み進めるうちに、本の世界へ入り込んでいった。
架空の舞台の上に人物が何人か現れ、そのうちの一人が消え去り、事件として騒がれ出し、怪しい気配を誰もが感じ始めていた。雪原の上に建つ小屋では、犯人の目星も付かず、足跡すら辿れなかった。各人物に動機を当てたところで、一章の終わりを迎え、本を静かに閉じると、目の前で古河が座席の背もたれに腰掛けていた。
そこで『あ』と口を開きかけ、すぐに閉じると、古河がカップを差し出してきた。
鞄に手を掛けて本を仕舞ってから、カップを受け取り、飲み口を開けて口に含んだ途端に、視線が古河に向かった。
すると、古河は微かに笑い、こちらを見ると、平坦な顔になり、口を開いた。
「志央の知りたいのって、俺の女関係だろ」柔らかな声で尋ねてから、古河はポケットを探り、携帯を取り出すと、おもむろにこちらへ向けてきた。
「なんですか」咄嗟に返したものの、携帯には目を向けず、カップを飲み進めた。
「これに全部入ってる。見ても掛けても止めない。出ない人も文句言う人も居ない」古河はそう言いながら、携帯を見るよう、顎で促した。
「そんなことされても……」口にすると、すかさず古河は「それはそう。けど、俺がしたいからしてる」と言い、こちらのカップを手に取り、口に含んだ。
軽く味わったあとで、笑みを浮かべると、古河はカップをこちらの手に握らせ、再び座席に腰掛けて言った。
「志央もそうじゃないの」
平坦な口調を聞いてるうちに、今まで引きずっていた嫌な思い出が薄れていることに気づいた。
「私の、どこが……」
それでも、また口が勝手に尋ねて、途端に恥ずかしくなった。
「だから全部」
けれど、古河は平然としたままで、こちらの手を取り、再び口を開いた。
「何度聞いてもおんなじ。すっげぇ好き」
そう言って手を引き寄せると、「抱きしめていい?」と尋ねてきた。首を傾げてみると、「少しだけ、そのあとでちゃんと送ってく」と言って、優しく腕を回してきた。
背中に伝わる温もりや手の感触が優しくて、ときどき髭が首筋に当たって擽ったくなった。