未来に続く物語
 翌日。更衣室で昨日の様子が思い浮かび、どうすればいいのか分からなかった。

 古河の車で家まで送って貰ったけれど、助手席から抜け出したあと、見送るように立っていても車は走り出さず、こちらの様子を窺っていた。軽く頭を下げてみたものの、古河も同じように頭を下げ、顎で促してきて、平然とした顔をしていた。

 諦めて踵を返し、アパートの階段を登ってから、踊り場で少し覗いてみると、ようやく車が走り去って行った。

 それから思い出してみても、所々に同じような気遣いを感じ、途端にむず痒くなった。

 軽く肩を回してから、首の凝りを解したあと、深い息を吐き出し、更衣室を後にした。今日は午前中までカラオケ屋の受付業務で、通路を歩きながら羽山と組まされてることを思い出し、出入口の前で足を止めた。

 店内や外からは見えないけれど、ドアを開ければ、羽山の姿は必ず目に入る。声を掛けるのは慣れていても、会話が始まれば詰められるような気がした。

「志央」

 不意に低い声で呼び掛けられ、視線を向けると、古河がカップを持ち、こちらへ近づいてきた。

「おはようございます……」

「おはようさん。はい、志央の分。遅刻か?」古河は言いながら、カップを差し出し、ポケットから煙草を取り出して口にくわえ、こちらを窺っていた。

「いえ、静電気が来そうだったから……」そう言って、カップを受け取ると、古河の口元が緩み、優しげな目をして言った。

「手、貸してみ」

 右手を差し出してみると、古河の手が重なり、指を軽く絡めてから、すぐに離れていった。

「……効果あるんですか」

 首を傾げたまま尋ねたら、古河は「一時的なもんだけどな」と言い、続けて「遅刻になるけど、良いんですか、お嬢さん」と茶化すように言った。

「ありがとう、ございました。古河さん」思わず返してみると、古河はまた口元を緩め、再び言った。

「睦生。睦まじいにの睦に、生まれるって書く。そういや、番号交換する?」

「……後で会った時にでも……お疲れさまです」

 そう言ってドアに手を掛けた時、目の端に携帯が差し出されていた。

「すぐ掛けられるようにしたほうがいいと思うけど……」古河は言いながら携帯を戻し、QRコードの画面を開くと、またこちらに向けてきた。

 断る隙もなくなり、ポケットから携帯を取り出し、かざしてから言った。

「余り送らないと思いますけど……」

 すると、古河は「念の為、的な」と言って、携帯をポケットに仕舞い、「じゃ、また」と踵を返して行った。
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