未来に続く物語
 店に入ると、羽山が受付の中のソファーに座っていて、こちらを見るなり、険しい顔をして言った。

「おはようございます。その跡どうしたんですか」

「おはよう。何言ってるのか分かんない」そう返して、ソファーに向かい、一人分空けて腰を下ろし、息を吐いた。

 羽山の言葉も気にせずにいると、明らかに苛ついた様子で、ポケットから煙草を取り出して言った。

「古河さんってモテますよね。あちこちに女作ってそうだし、やめたほうがいいと思います」

「羽山くんだって……」と言いかけ、思い直して、すぐに「人の噂するの良くない。煙草吸うなら事務所でしょ」と口にした。

 すると、羽山は「吸いませんよ、くわえただけです。古河さんじゃないので」と名前を強調するように言い、煙草を箱に戻した。

 何かしてくるとは思わないものの、苛立ちの矛先がどこに向かうのか分からず、ソファーの端のほうへ座り直し、羽山の様子を窺いながら言った。

「お客さん来る頃だから、あまり話さないほうがいいと思う」

「どうせ来ません。平日なので」羽山は言ってから、聞こえるように溜息を吐き、ポケットに両手を入れ、ソファーに背を預けた。

 そこで何も返せなくなり、様子を窺いつつ、黙り込んだ。

 羽山の気持ちは分かっているけれど、以前の件や今の状況を見ると、答えは容易に浮かんでいた。

 いっそのこと辞めてしまえば解決するのかもしれない。

 けれど、それは最後の手段でしか無く、余りにも互いに尾を引く気がした。

 そんな考えに耽るうちに、言葉も見つからず、時間だけが過ぎていった。

 不意に一組の客が入ってから、しばらく経った頃に、羽山が声を掛けてきた。

「志央さん」

「なに、羽山くん」

 淡々と言ってみると、羽山は背を軽く起こし、一度息を吐いてから言った。

「何が違うんですか。古河さんと……」

 重みのある口調に、思わず息を止め、少し間を置いてから、吐き出した。

「比べたことないよ。羽山くんには相応しい人が居ると思う」

「そういうのは聞いてません」

 返ってきた言葉で、話を逸らせないことが分かった。

「ありがとう。羽山くんのことは考えられない。ごめんなさい」

 すると、羽山が立ち上がり、「どいて」と言い、こちらが膝を少し避けると、わざとぶつかるように抜け出し、こちらに向かって言った。

「半年間、無駄にした。おつかれ」

 その言葉の意味さえ捉えられず、呆気に取られたまま、気づけば店内の時計に視線を向けていた。
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