未来に続く物語
 午後から美容室の予約を入れていたことを思い出し、慌ててカラオケ屋から抜け出し、更衣室へ向かった。手早く着替えを済ませてから更衣室を出て、ビルの出入口に向かうと、雪がちらついているのが見えた。寒さを感じて鞄の持ち手からネックウォーマーを外し、首に掛けながら美容室に向かった。

 そこで長かった髪をトリートメントしてもらい、セミロングにしてほしいと言うと、担当の若い男の美容師が顔色を変えた。

 長さもあって綺麗だから切るのは勿体ないと言われたものの、頭も重くて嫌だから軽くしてほしいと押し切った。それでも顔色は浮かばず、髪の毛の束を持つ時に、こちらを確かめるように眺めていた。

 美容師の考えは分かるけれど、居たたまれなくなり、早く帰りたくて仕方なかった。一時間半ほどの施術が終わってから、素早く会計に向かうと、美容師が受付の背後にあるワードロープから荷物を手に取り、こちらに差し出しながら言った。

「近くまで送って行きますよ。客も居ないので」

 余りにも唐突な言葉に、断る理由をいくつか思い浮かべても、上手く躱せないような気がした。何も返さずに財布から金銭を取り出し、札を揃えて受付に置き、すかさずコートを羽織ってから、受付の脇に置かれたネックウォーマーを手にした。

 それを理由にしようかと悩みながら、美容師が会計を済ませるのを窺い、釣り銭を置かれたところで、美容師が再び口を開いた。

「休憩もうすぐなんで、気にしなくていいですよ」

「迎えが来るので、済みません」思いきり吐き出し、早足で店を出てから、何も考えずに繁華街のほうへ駆けて行った。

 まだ夜にもならないというのに、そこでは黒服のキャッチが点在していて、目を向けないように早足で歩いた。

 けれど、あちこちで声を掛けられ、行く手を阻まれながらも、何とか躱して裏通りに入り込んだ。車の往来やトラックの運搬作業に気を配り、目指していたのは職場のビルだった。

 見慣れた景色が覗き始めたとき、背後に嫌な気配を感じ、足を止めずにビルの中へ進んだ。

 そのまま物陰に身を潜めると、先程の美容師とは違う人が通り過ぎて行った。

 ふと息を漏らし、ネックウォーマーに顎を沈ませると同時に、辺りに暗い影が落ちた。

 咄嗟にしゃがみ込むと、目の前の人物が言った。

「やっと、見つけた」

 近づいてくる気配に身体を縮こませ、ポケットに手を忍ばせた。その瞬間だった。

「志央?」

 そう聞こえたときには、目の前の人物がゆっくりしゃがみ込んでいた。
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