未来に続く物語
「さ、次は二階へ行きますよ、お嬢さん」と彼は言い、こちらの手を取って促した。

 足を踏み込んでみると、彼の手が優しく絡んできて、導かれるように店舗から抜け出し、脇に備えられた二階へ続く階段を静かに上がって行った。鍵を開けてから、ゆっくりとドアが開かれ、促されるままに入ってみると、レースのカーテンがあるだけの何もないリビングが見えた。

 そこから彼は先を進んで行き、左端のキッチンへ向かい、換気扇を点けてから、煙草をくわえた。リビングから右側に視線を移すと、少し大きめの部屋があり、ベッドが一つだけ置かれていた。

 あまりにも空間が目立つ中で、立ち尽くしたまま、瞬きをするうちに、誰かに言われたことを思い出した。

『すぐ居なくなる人に、必要なくない?』

 軽く首を振ってみても、現実は目の前に広がっていて、急に胸が苦しくなった。

 それは悲しさに似ていて、足を止めたまま、自分だけが置き去りにされたように感じた。

 ふと視線を落とすと、足元に影が留まり、腕を取られ、身体が翻った。

 腕を取っていた手が下りてきて、その手がこちらの手のひらに何かを残していった。

 そこで手の平を眺めてみると、小さな白い紙袋があって、すぐに首を傾げてみた。

 すると、彼は軽く笑みを浮かべ、「志央に」と言って、優しげな目を向けてきた。

 戸惑いながらも開けてみると、シルバーの小ぶりなフープピアスで、フープの中には小さな宝石が付いていた。

「お揃い……的な……」そう口にしてみると、彼は微かに頷き、こちらを窺うように見つめてきた。

 途端に恥ずかしくなり、視線を逸らすようにピアスを外し、貰ったピアスを着けてから、紙袋に外したピアスを入れ、ポケットの中へ忍ばせた。

 その手が掬われたかと思うと、彼が一歩近づいてきて、おもむろに口を開いた。

「志央、さん。これから俺と付き合いを前提に、結婚してください」

 耳にした言葉に苦笑いが浮かび、徐々に口元を戻しながら言った。

「睦生さん、逆になってます」

「それはそう。けど、俺はもう愛し始めてる」彼はそう言って、こちらの身体を抱き上げ、「軽すぎ……」と口にし、ベッドまで足を運んで行った。

 こちらの身体をベッドへ優しく倒すと、彼はアノラックを脱ぎ捨て、こちらのマウンテンパーカーのチャックを下ろした。

 軽いキスを重ねながら、身を任せていたとき、彼の唇が首筋から耳元で止まると、吐息混じりの声が囁いた。

「確認して、いい……?」

 微かに震えて聞こえ、彼の背中にそっと手を回すと、その身体が重なってきた。

 何も言わなくても伝わってくる温もりと、絡んだ手の強さで互いの想いを交わしていた。
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