未来に続く物語
 ベッドの中で互いに顔を合わせて横たわったまま、彼はこちらの髪を撫でたあとで、手を掬い上げ、指を軽く絡めて言った。

「俺がここで暮らし始める時、志央も来てほしい」

 余りにも唐突な言葉に瞬きをしていると、再び彼の口が開いた。

「向こうには二ヶ月しか残ってないし、短いけど……送り迎えするし、引っ越しや手続きなんかも力になる。嫌なら……待つ」

 思いきり吐き出すような口調でも、その内容にはこちらへの気遣が滲んでいた。

「ここで、何するの?」そう尋ねてみると、彼は軽く口角を上げ、「それはそう。けど、ある程度のことは出来る。パンを焼いてもいいし、珈琲の淹れ方も教えられる」と言い、こちらの手の甲へキスをした。

 そこで、面接の時に上司と話したことがオーナーに伝わり、そこから彼にも筒抜けになっていたのだと、ようやく理解し始めた。

「睦生さんは、ここのマスター?」と尋ねたとき、すかさず彼は「睦生。それもそうだけど、ピアノ講師も兼ねてるし、夜はBARを考えてる」と答えた。

 準備の整った店舗と、ベッドだけが置かれた部屋、何もないリビングを思い浮かべてみても、実感が湧いて来なかった。

 けれど、向こうに戻れば必ず顔を合わせる人が居て、躱し続けても面倒なことになりそうな気がした。それでも……。

「いいのかな……ここに来て」

 また口が勝手に開いていて、彼の顔を見つめていた。

「俺は志央を離したくない。ここで始めてほしい」

 絡んだ手が軽く押さえ込まれ、唇が重なった瞬間に、生温かい感触が滑り込んできた。

 そのまま深く交わし合ううちに、彼の身体が重なってきて、先程よりも激しさが増していた。

 何度も呼んだ声を塞ぐように唇を重ね、はぐれないように指が強く絡み合い、徐々に離れていった。

 汗ばんだ身体の隙間に冷たい風が通り、彼の視線が向いてきたと同時に、表情が悲しそうに見えた。

「泣いてる……の?」

 思わず口を開くと、彼はこちらの頬に優しく手を添え、指先で撫でながら言った。

「違う。嬉しかった。志央が呼んでくれたから……」

 こちらまで込み上げてきそうになり、堪えたところで唇が軽く重なり、再び彼の口が開いた。

「愛してる」

 そう言って彼は身体を重ね、首元で縋り付くように、顔を寄せてきた。

息を整えながら、その言葉を噛み締めているうちに、自然と口が開いていた。

「あいしてる……」

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