未来に続く物語
 ビルの前に車が停められ、助手席から抜け出すと、車はすぐにコインパーキングに向かって行った。そこから更衣室へ足を運び、制服に着替えてから、カラオケ屋の事務所に行き、シフトを確認して、五階の映画館に向かった。

 作業を終えてから、受付に入ると、階段を上がってくる音が聞こえ、腰を上げながら、カウンターの上に袋を置いて待った。

 すると、彼が向かってきて、カウンターにカップを静かに置いた。

「はい、志央の分。もしかして、俺の?」と尋ねられ、軽く頷くと、彼は袋を手にして、嬉しそうな顔をした。

 こちらまで同じように笑みが浮かび、少しずつ澄ました顔に戻したけれど、彼は視線を向けて言った。

「ありがとうございます。俺のお嫁さん」

 その言葉に軽く呆れながらも、彼の優しげな顔を見るうちに、嬉しさが湧いてきていた。

「仕事、してください」

 照れ隠しをして言うと、彼は「それはそう。頑張ります」と少し気怠そうにして、関係者出入口に向かって行った。

 それからも上映後に何度か出入りするのを見掛け、昼頃に交代したときに、彼から「くっそ美味かった」と言われ、また作ろうと思えた。

 休憩を終えてからも同じように見掛けたけれど、会話を交わさなくても視線を合わせていた。

 やがて最終上映が始まり、片付けを終えたあとで、金庫と鞄を手に持ち、受付を抜け出した。

 ゆっくりとした足取りで階段を下りていると、羽山が同じように上がって来て、どちらに足を向けても阻まれてしまった。

「お疲れさま。通れないんだけど……避けて貰えるかな」

「通れなくしてるんだから、当たり前でしょ」

 羽山はポケットに両手を入れたままで、こちらの足先から上へ辿るように視線を動かすと、軽く口の端を上げて見てきた。

 途端に嫌な予感が浮かび、息を潜めながら言った。

「お客さんの邪魔になるから、やめて」

「これから来る奴なんて居ないの知ってるくせに」

 それでも羽山の口は止まらず、こちらが僅かに動いても、すかさず行く手を阻んできた。

 何かを言っても必ず返してくるし、後に引けば追ってくるのが目に見えていた。

 一歩も動けずに考え始めたところで、関係者出入口を思い出し、息を止めた瞬間だった。

「そこの兄ちゃん、俺の嫁になんか用か」

 とてつもなく低い声に振り向くと、何かが飛んできたと同時に、羽山の額の先に当たった。
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