未来に続く物語
 彼は静かに階段を下りてくると、羽山の足先に落ちていた煙草の箱を手に取り、一本口にくわえてから、両手をポケットに入れ、羽山に視線を向けた。

 ただならぬ気配に階段を一歩上がり、彼の脇から様子を窺ってみると、羽山が嫌な笑みを浮かべて言った。

「女と一緒で手ぇ出すの早すぎでしょ、何人囲ってんの」

 煽るような口調に、彼は軽く首を傾げ、すぐに戻して返した。

「そんで、あとは?」

「一回寝ただけのくせに、いい年して自分のもん呼ばわりして、格好悪」

 羽山は軽く息を飛ばし、彼を見下すように視線を向け、ポケットから片手を出した。もう一方はポケットの中にあり、何かを隠しているように見えた。けれど、口を開くことさえ出来ず、金庫を片手に持ち、もう一方で鞄を強く握って息を潜めた。

「あーね。まず落ち着け」そう言って彼は煙草の箱から一本覗かせ、羽山に向けて差し出した。

 すると、羽山は軽く払い除け、ポケットから手を出したところで、誰かがその手を掴んだ。

「いい加減にしてよね。マジで人使い荒いわよ。古河ちゃん」

 そう言いながら、その手を思いきり振り解いた人物が、こちらを眺めて笑みを浮かべていた。

 見覚えのあるブランド服と口調に、ビルの前で彼と揉めていた出来事を思い出した。

「どの口が言ってんだよ。ろくに豆も選べねーのに」彼はブランド服の人に言うと、その人は「おーこわ」と口にしながら、こちらに寄ってくると、隣に並んで立った。

 そこで、ブランド服の人が耳打ちするように言った。

「ワタシ、湯川。古河ちゃんの同級生。よろしくね」

 その声は男性のものだったけれど、口調と身なりと合わせて、女性として居ることに気付いた。

 彼の交友関係を目の当たりにしたものの、羽山は立ち去ることもなく、その場で口を開いた。

「仲間増やして、ゲームかよ。おもしろ」

 再び煽るような口調に、彼は軽く頷いて見せると、羽山に視線を向けた。

「レベルアップ、的な」

 それは相手の言葉に対して、冷淡に合わせただけのように聞こえてきた。

 すかさず羽山は舌打ちをしてから、「くだらな」と呟き、続けて「せいぜい頑張れよ、おっさん」と言い、踵を返したところで、彼が声を掛けた。

「首洗っとけよ、兄ちゃん」

 ふと羽山が足を止めたかと思うと、少ししてから振り向きもせず、そのまま階段を下りて行った。
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