未来に続く物語
 再び本を開いたところで、一行目から読み進められず、静かに閉じたあとで鞄の上に置いた。

 おそらく、この環境は年頃の女子や同じ世代の女性から見れば、羨まれることだとは思う。

 実際に羽山が来てからというもの、学生の休み時期になると、催しがあると女子高生が来るようになったし、近くのカフェショップの店員ですらも、暇を見つけては足を運んで来るようになった。

 誰かが何かを言ってきたり、別の人が騒ぎを起こす事は一度もなかったけれど、新たに来た人物が火種になるような気がした。

 古河の身なりは都心部の雰囲気があるし、臨時職員として居るだけでも、女性が来る様子は容易に浮かんだ。

 昨日の件には、今後も触れないようにしようと思い、軽く息を吐いた時だった。

 微かな気配に視界の端でカウンターを捉えると、テイクアウトのカップが置かれようとしていた。

 ふと視線を向けると、古河が立っていて、白地に黒い線の入ったアノラックから、黒いネックウォーマーが覗いて見えた。

 その口元から吐かれる息も白くて、それを目にしている間にカップが静かに置かれ、そのまま古河が口を開いた。

「これ、昨日の件のもんじゃないから。寒そうだったし……的な」

 潜めたような声は低く、人けもない館内では籠って聞こえた。

「要りません」

そう返してみると、カップを持った指先が僅かに動いた。

 古河が持ち去ってくれれば、こちらは何も言うことはない。けれど、その手は再びカップを軽く持ち、こちらへ少しだけ近づけた。

「そういうの、一口飲んでからでも遅くないと思うけど……」

 淡々とした口調が妙に気まずさを掻き立て、答えもせずにカップの飲み口を親指で押し込み、そのまま口に含んだ。

 すると、この辺りでは飲んだことのない味がして、一口ずつ飲みながら確かめようとしていた。

 まろやかな舌触りは水に拘っているようで、どこかで飲んだ気がするけれど、僅かに感じる苦みが豆の焙煎によるものか、品種によるものかまでは分からなかった。

 飲み進めるうちに、古河と視線が合い、途端に気まずくなって、口を開いた。

「これ、どこのですか……?」

 すかさず古河は「知りたい?」と言いながら、カウンターに肘をつき、頬杖をついてから、こちらを眺めた。

 最後の一口を飲み込む音が、古河まで聞こえているように思え、軽く姿勢を正して返した。

「自分で探します」

 毅然としてみたものの、古河は態度を変えず、おもむろに口を開いた。

「探すより、俺と付き合ったほうが早い」

 その言葉がこちらを試すものだと分かっても、返すことすら他人事に思っていた。
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