未来に続く物語
 館内の時計に目を向けると、上映終了までは一時間も残っている。

 いつまで居座るのかなど知りたくもないけれど、古河の態度を見るだけで再び話し掛けて来そうな気配は感じていた。

 話題を逸らすことは出来るし、答えずに黙ることにも慣れている。どちらをしなくても、相手が勝手に結論を吐いて去るのは分かりきっている。

 何度経験していても、結論として吐かれた言葉は未だに一つも理解できていない。

 高校に入ってから告白してきた人は三日後に『思ってたのと違う』と言って、すぐ別の人に告白していた。

 その一ヶ月後には……と思い出に耽りそうなとき、煙草の匂いが微かに辺りを漂っていた。

「世野、志央……」低い声が聞こえ、視線を向けると、古河は「志央」と呼び掛けてきた。

 この時、胸に着けた規定のネームプレートを初めて恨んだ瞬間だった。

 そこで口を結んでみても、古河は再び「志央?」と尋ねるように言った。

 声色は変わっていて、先程とは違うように聞こえ、尋ね返した。

「何がしたいんですか?」

 すると、古河は軽く首を傾げ、徐々に戻しながら言った。

「確認……的な」

「終わったなら、仕事に戻って下さい」

 茶化している様子や、ふざけているようには見えないけれど、古河の考えていることは、煙に巻かれたように掴めなかった。

「これ吸ったら行くけど、さっきの返事は?」

「聞こえませんでした」

 もし、そこに何かが含まれていたとしても、見えないものは絵空事と同じだと思っている。

 まるで取り調べのような状況の中で、古河はポケットから携帯灰皿を取り出し、煙草を差し込んだ。そして軽く握ってから、こちらに向かい、おもむろに口を開いた。

「じゃあ、明日は志央が気に入る物を持ってくる」

「明日は居ません」主語を抜いて言ったものの、古河はすぐ「必ず持ってく」と答え、ふと息を吐いてから言った。

「交換条件……的な」

 それは呆れるというより、余りにも常套文句に思えた。それでも言うしかなかった。

「他を当たってください」

 毅然としてみたけれど、古河の態度が変わることはなく、こちらが飲み終えていたカップを手に取って踵を返した。

 古河は関係者出入口に向かう間際に、カップをゴミ箱へ静かに落とし、扉を開けてから中へ入って行った。
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