君だけに奏でる愛のカノン〜世界的ピアニストの甘い溺愛〜
 まだまだやらなければならないことは山積みだったけれど……行くことにした。

 ――奏に会いたい。

 予想よりもはるかに現実に打ちのめされていた私は……奏を求めていた。

 荷物をまとめて羽田空港へ向かった。

  スマホに表示されたQRコードを読み取り機にかざして搭乗ゲートを通り抜けると、少し解放された気持ちになる。

 物理的に東京から離れることが、こんなに心に効くとは。

 飛行機の窓から空を見ると、雲が流れていく。
嫌なことはすべて、雲と一緒に流れていってしまえばいいのに。

 新千歳空港に降り立つと、奏がゲートで出迎えてくれる。

 きちんと髪が整えられていて、美しさが際立つ奏に両腕を広げられて、飛び込みたい気持ちと、照れ臭い気持ちで迷ってしまう。

 奏は、そんな私を笑いながら抱きしめると、額にキスを落とした。

 そうだ、この人は感覚が欧米なのね。

 人前だけど、全く気にせず私への愛情を示してくれる。最初は人目が気になったけれど……奏に触れると、そんな感覚はどこかへ飛んでいってしまった。

「会いたかった」

 彼のその一言で私の張り詰めていた神経が緩む。

 この人は、私の特効薬かも知れない。

「さあ、行こうか」

 奏が私のキャリーケースを持って歩き出す。

「どうしたの? 黙り込んで」
「なんか……胸がいっぱい過ぎて、言葉が出てこない」

 私がそう言うと奏は微笑んだ。

「そうか。……これからどうする? 荷物を置いたらどこか出かける?」
「奏の仕事の予定は?」
「僕は明日の午前中にリハーサルがあるけど、それまでは特に何も」
「そうなの」
「何か希望はある?」
「せっかく来たから札幌を見てみたい気持ちはあるんだけど……」
「けど?」
「今はとにかく奏を見ていたい」

 私の意見を聞くと、奏は嬉しそうな顔をした。

「そうきたか。じゃあ、気が済むまで眺められるプランにしよう」

**

 ホテルの部屋に入ると、奏はルームサービスで飲み物と軽食を頼んでくれた。

 部屋にコーヒーの香りが漂い、リラックスした気持ちになる。

 奏を見つめたいと言ったのは私だけど、奏もじっと私を見つめ続けた。

「毎日連絡はしていたけど……少し痩せたかな?」
「そうかもね。やりたくないことばかりやらなければならない毎日は、想像以上に精神を蝕むから」
「毎日一緒にいて君の力になりたいけど」
「離れていても、あなたの存在に私は救われてきたわ」
「……僕は、頼りになっている?」
「もちろん。……あなた無しでは、無理だったと思う」
「それを聞けて、安心した」

 勧められて、サンドイッチをつまむ。

「……美味しい」
「もっと食べて。……君は少し、痩せ過ぎじゃないかな?」
「そう? もう少しグラマラスな方があなたの好み?」
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