君だけに奏でる愛のカノン〜世界的ピアニストの甘い溺愛〜
**
結婚式まであと二週間となった。
有給消化も終わり、私は今日、正式に退職する。
もう引き継ぎは全て終わっているし、書類を受け取り、挨拶回りをした後、会社を後にした。
最初の角を道の反対側に渡ったところで振り返り、会社のビルを見上げる。
ここでお世話になって五年が経ったのだな……と感慨深く眺めていると、ビルから見知った人影が出てきた。
――直人だ。
私は、声を掛けようと道を戻り出した。けれど、私と反対側に歩き出した直人を追う女性の姿が見えた。
あれ?
その女性の後ろ姿に、見覚えがあった。
あの茶色いふわふわの髪は――すみれ?
そう思った時、声をかけられた様子の直人が振り返り、すみれらしき女性に気付く。すると、直人は、左右を見渡した後、女性の肩を抱いて角を曲がり見えなくなった。
反対側の歩道に立つ私に気付きもせずに。
――どういうこと?
訳がわからず、しばらくその場に立ち尽くしてしまったけれど、我に返った私は、慌てて二人を追った。
信号を渡り二人が曲がった角まで来たけれど、もう二人の姿は見えなかった。
……嫌な予感が、した。
**
あれから何度か連絡したけれど、直人に繋がらない。すみれも同様で、二人に連絡がつかないまま夜になってしまった。
最近、体調不良を理由に私と会おうとしなかったすみれ。
周囲を確認してから肩を抱いた直人。
これが何を意味するのか……考えたくないことばかりが頭に浮かんでくる。
一人でどんなに考えても答えは出ない。
私は、部屋の鍵を掴むとコートを着て家を出た。
――直人のマンションに行ってみよう。
電車に乗り直人のマンションへ向かう。
二階の直人の角部屋には灯りがついていた。
家にいることがわかり、少しホッとする。
エントランスで呼び出しボタンを押すと、セキュリティカメラのライトが光った。
「花音……」
直人の驚き交じりの声がした。
「直人、聞きたいことがあるの。開けて」
私がそう言うと、エントランスの自動ドアが開いた。
直人の部屋が近づくにつれて、なぜか心が重くなっていった。
何度も来た直人の部屋のドアを開ける。
玄関には、私の物ではない女物の靴。
靴を脱いで部屋に上がると……リビングには、すみれがいた。
今まで直人の家に、私の友達が一人で遊びに来ることなど、なかった。
心臓が早鐘を打つ。
――嘘でしょう? どうか嘘だと言って。
私が納得するような理由を言って安心させて。
結婚式まであと二週間となった。
有給消化も終わり、私は今日、正式に退職する。
もう引き継ぎは全て終わっているし、書類を受け取り、挨拶回りをした後、会社を後にした。
最初の角を道の反対側に渡ったところで振り返り、会社のビルを見上げる。
ここでお世話になって五年が経ったのだな……と感慨深く眺めていると、ビルから見知った人影が出てきた。
――直人だ。
私は、声を掛けようと道を戻り出した。けれど、私と反対側に歩き出した直人を追う女性の姿が見えた。
あれ?
その女性の後ろ姿に、見覚えがあった。
あの茶色いふわふわの髪は――すみれ?
そう思った時、声をかけられた様子の直人が振り返り、すみれらしき女性に気付く。すると、直人は、左右を見渡した後、女性の肩を抱いて角を曲がり見えなくなった。
反対側の歩道に立つ私に気付きもせずに。
――どういうこと?
訳がわからず、しばらくその場に立ち尽くしてしまったけれど、我に返った私は、慌てて二人を追った。
信号を渡り二人が曲がった角まで来たけれど、もう二人の姿は見えなかった。
……嫌な予感が、した。
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あれから何度か連絡したけれど、直人に繋がらない。すみれも同様で、二人に連絡がつかないまま夜になってしまった。
最近、体調不良を理由に私と会おうとしなかったすみれ。
周囲を確認してから肩を抱いた直人。
これが何を意味するのか……考えたくないことばかりが頭に浮かんでくる。
一人でどんなに考えても答えは出ない。
私は、部屋の鍵を掴むとコートを着て家を出た。
――直人のマンションに行ってみよう。
電車に乗り直人のマンションへ向かう。
二階の直人の角部屋には灯りがついていた。
家にいることがわかり、少しホッとする。
エントランスで呼び出しボタンを押すと、セキュリティカメラのライトが光った。
「花音……」
直人の驚き交じりの声がした。
「直人、聞きたいことがあるの。開けて」
私がそう言うと、エントランスの自動ドアが開いた。
直人の部屋が近づくにつれて、なぜか心が重くなっていった。
何度も来た直人の部屋のドアを開ける。
玄関には、私の物ではない女物の靴。
靴を脱いで部屋に上がると……リビングには、すみれがいた。
今まで直人の家に、私の友達が一人で遊びに来ることなど、なかった。
心臓が早鐘を打つ。
――嘘でしょう? どうか嘘だと言って。
私が納得するような理由を言って安心させて。