元カレ副社長は、初恋を拗らせていた

 月曜日に席替えをして、やっと迎えた金曜日。

 神谷くんと席が離れてから、沈んでいた気持ちにも少しずつ慣れてきた。やっと一週間が終わると思うと、心も軽くなっていた放課後。

 私は当番の仕事を終えたあとも、教室にひとり残っていた。

 窓の外では、運動部の掛け声が校庭に響いている。桜の花びらが一枚、春風に押されてフェンスの向こうへ流れていった。夕方の光はまだ明るく、机の上に淡い影を落としている。

 帰ろうと机の上のバッグに手を伸ばしたとき、教室の後ろのドアが開いた。

 「小林さん、まだいたんだ」

 振り返ると、神谷くんが立っていた。

 「神谷くん……どうしたの? 忘れ物?」

 冷静を装った声とは裏腹に、思いがけない彼の登場に心臓が跳ねた。

 「ちょっと話したくて。小林さんが残ってるのわかってて、戻ってきた」

 少し照れたように笑う彼に、胸がきゅっと締めつけられる。

 期待しちゃだめなのに。こんなことを言われたら、誰だって期待してしまう。

 でも、彼は天性の人たらしなのかもしれない。

 そう自分に言い聞かせ、浮き立ちそうな気持ちを必死に抑えた。

 「どうしたの? スクモンのこと?」

 好きな人と二人きりの状況に緊張して、言葉がうまく出てこない。私は机の上のバッグをぎゅっと握った。

 「スクモンの話もしたいけど、今は別の話で」

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