『欠陥品だがくれてやる』と下げ渡されましたが、英雄騎士の旦那さまは私を激重愛で離してくれません
「リリアーナ、ゆっくりでいいから目を覚まして」

 名前を呼ばれて、泥のように眠っていた意識が浮上していく。誰が自分の名前を呼ぶのか最初はわからなくて、しかし次第に今日あったことを思い出して……飛び起きた。

「……っ、グレイ様、申し訳ありません! 私ったら、思ったより深く眠ってしまって……!」

 馬車の中はランプに火が入っていて、グレイが笑う顔までよく見える。リリアーナは意識を整理しながら、改めて自分がグレイのおかげで城から出られたことを思い出した。

「少しは体力を回復できたかな。……ほら、この辺りに見覚えはあるだろうか」

 馬車の内側にかけられたカーテンを開いて、グレイはリリアーナに外の風景を見てみてと促す。リリアーナは小さな窓に顔を近づけて、目を凝らしてみた。

 うす暗闇の中、一面の畑の奥に森が見える。その中でもとくに大きな樹木がの影が藍色の空に広がるのを見て……、リリアーナの色褪せていた記憶に一気に色がついた。

「あれは、楢の木です! うちの屋敷からもよく見えて、ああ、懐かしい……」

 屋敷の庭からよく見えた楢の木が見えて、リリアーナは高揚した。体の内側から不思議と力がわいてくるような感覚がして、馬車での移動の疲れも消えてしまった。

「なら、そろそろリリアーナの生家に到着するな。リリアーナの家には、ご両親と、あとは?」

「四つ歳下の弟がいます。私のこと、しっかり顔を覚えてくれているか……」

 当時六歳だった弟は、きっとリリアーナの姿をはっきりとは覚えていないだろう。リリアーナも弟の成長した姿は見ていないが、彼の存在が両親の支えになっているようにといつも願っていた。
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