『欠陥品だがくれてやる』と下げ渡されましたが、英雄騎士の旦那さまは私を激重愛で離してくれません
こちらを見れば嫌味を言う、そんな人と結婚する未来があった──。婚約していた事実を思い出して、リリアーナは今さらながら震え上がった。
リリアーナ自身も、最近ではグレイと一緒にいたいという気持ちが大きくなってきていて、会える日を心待ちにするようになっている。
昼にはグレイが到着するので、母や使用人と一緒に食事の準備をしてから、二階の自室で鏡と睨み合いをしているところだ。
口角に指を当てて、クイッと引き上げてみる。
硬くなった表情筋を和らげるために、リリアーナはこうして笑顔を取り戻すマッサージを繰り返す。
(もう、私を罵ったりする人はいない。笑顔になっても、叱られたりしない、きっとグレイ様だって、笑っている私の方が……いい? いや、どうなんだろう)
グレイは戦場で、リリアーナに生かされたと言っていたけれど、リリアーナには特別なにか彼にした覚えはまったくない。
生かされた、とグレイが言うなら、リリアーナ自身はその反対だった。修道院で毎朝目覚めるたびに、王都から迎えがきたらどうしようと怯えていたのだ。
(……王都には、帰りたくなかった。ここで誰かのために、命の最後のひと絞りまで働けたらと思っていた。大変な場所だったけれど、誰も私を表立って悪く言う人はいなかったわ)
だから戦況が有利になってきたタイミングで王都から迎えがきたときには、リリアーナは目の前が真っ白になった。逃げ出してしまおうと一瞬頭によぎったけれど、家族や修道院のみんなに迷惑をかけると考えると体が動かなかった。