『欠陥品だがくれてやる』と下げ渡されましたが、英雄騎士の旦那さまは私を激重愛で離してくれません
グレイが倒れたと、アザール家にも知らせなければならない。父は身支度を素早く済ませると、もう一台手配した馬車に乗り込んでいった。
それを見送った母が、客間に戻ってきた。
「お疲れ様、リリアーナ。貴女も手を洗って着替えましょう」
母の視線は、グレイの血で汚れた手やドレスの袖口に注がれている。けれどリリアーナは、この場を離れることができない。
「もし、もし私が離れている間に、グレイ様になにか起きたらって考えたら……。怖くて、ここから動けないの」
二度と目覚めなかった、ベッドに横たわった負傷兵たちの顔が頭を過ぎる。彼らはほんの少しひとりにした間や、就寝中に、静かにこの世から去っていった。
「わかったわ。とりあえず、手だけでも綺麗にしましょう。ここにお湯を持ってこさせるわ、温かい飲み物も用意するわね」
リリアーナの不安に寄り添うように、母はグレイが眠るベッドの側に椅子を一脚運んできた。
「お母様……」
「ここに座って、看ていてあげなさい。軽食も飲み物と一緒に持ってくるわ」
そう言って、母は客間から静かに退室していった。